2024年7月16日火曜日

IPO分析(Heartseed)

 【事業内容】

​ 当社はiPS細胞由来の心筋細胞の微小組織(心筋球)を心臓に移植する治療法である「心筋再生医療」を確立し、重症心不全患者さんに貢献することを目的として事業活動を行っております。

(1)事業の特徴

① 概要

 当社が日本で開発中の治療法は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下、「薬機法」という。)における再生医療等製品に該当し、日本政府は再生医療等製品の開発・承認期間の大幅な短縮を可能にした法律を世界に先駆けて制定するなど、実用化に向け国を挙げて全面的に後押しをしています。当社は、iPS細胞から作製した心筋細胞を重症心不全患者の心臓の中に移植する世界初の心筋再生医療を実現すべく、本制度を活用した条件及び期限付承認を取得することを目指して開発を進めております。他家iPS細胞由来心筋球については、現在進行中の治験の承認後は、事業パートナーであるグローバル大手製薬企業のノボノルディスク エー・エスと共にグローバル市場への展開を取り組んでいく方針です。


② 対象疾患について

 心臓は標準的なヒト成人の心臓ではおおよそ250-350gといわれていますが、心臓全体として筋肉の塊のような構造をしており、体全体に血液を循環させるポンプの役割をしています。日本医師会によると、心臓によって1分間で合計約5Lの血液量が全身に循環され、心臓の拍動の回数は1日約10万回、一生の間には40億回以上も打ち続けることになります。心臓の拍動を支えるのが心筋細胞ですが、ヒトは壊死した心筋を元に戻す自己再生能力を持っていないため、加齢や疾患などによるダメージなどで心臓の筋肉量は徐々に低下をしていき、結果、心拍出量は低下していきます。

 心臓の収縮能力や拡張能力が低下するなどの原因により、心拍出量が低下し、その拍出量の低下を補うために心臓が拡大し、その結果、肺などの臓器うっ血や呼吸困難、運動能力の低下をきたす症候群が、心不全です。様々な心臓疾患の病状の進行により起こる終末像とも言え、心不全を引き起こす代表的な原因として、虚血性心疾患、高血圧、心臓弁膜症、心筋炎、不整脈等心臓や循環器に起因するものに加えて、糖尿病や肺気腫などの他臓器に関連するもの、心臓が生まれつき正常でない先天性心疾患など数多くの病態が存在します。急性期のショックと、慢性的な病態進行が混ざりながら病態が悪化していきます。心不全では、上記の自覚症状が慢性的に継続しながら病態が進行していった結果、最悪の場合は死に至る可能性もあります。


③ 既存の治療法について

 心不全発症前の治療としては冠動脈閉塞に対するカテーテル術、心不全発症後の病態改善のための治療法としては、心臓の負担を下げるための運動療法や薬物治療など、急性・慢性心不全診療ガイドラインに則して数多くの治療法が整備されておりますが、いずれも対症療法に留まっております。特に近年新薬が登場している薬物治療においても、複数種類の医薬品を組み合わせて、それぞれ最大用量の処方が推奨されるものの、血圧を下げる方向の薬が多いことから併用が難しかったり、患者さんの病態の都合上低用量でしか処方できなかったりと、課題があります。心不全の経過は多くの場合、慢性・進行性であるが故に、急性増悪が繰り返し発生することによって重症化していくことから、こうした対症療法を進めていたとしても、病態コントロールが出来ない場合は結果として、ステージC(心不全ステージ)からステージD(治療抵抗性心不全ステージ)へと進展していきます。

 最も症状が進行したステージDの心不全患者さんの病態は厳しく、5年生存率は多くのがんよりも下回る20%程度であり、重症心不全の根治的な治療法は心臓移植しかありません。心臓移植は世界中で慢性的なドナー不足が続いています。国内では特に深刻で、1997年に「臓器移植に関する法律」が施行され20年以上経つにもかかわらず、日本心臓移植研究会報告によると過去10年平均でわずか50人程度、多い年でも80人程度に留まっています。心臓移植は65歳以下が対象となっていますが、平均待機期間が3年程度で5年以上待機しているケースもあり、移植登録ができるのは実質的には60歳までとなっています。

 心臓移植を待機している患者さん向けの一時的な治療法として、小型ポンプを体内に埋め込んで心臓の左心室につなげて血液循環を補助する補助人工心臓治療があり、近年では心臓移植件数が伸び悩む中、補助人工心臓を半永久的に使用するDestination Therapyという治療法が許可されております。しかしながら、補助人工心臓治療の適応となるには、様々な選択基準をみたす必要がある他、初回退院後6ヵ月程度の同居によるサポートが可能な介護者がいる体制が必須で、バッテリーや電源の管理をはじめとして、患者さんだけでなく支える家族や周囲の方の生活習慣にも大きな制限があります。また心臓移植や補助人工心臓は費用が高額でかつ、施術後も毎年高額な管理費用が必要であり、施術に踏み切ることのできる心不全患者さんは限られているのが実態です。このように、重症心不全は患者数が多く、死亡者数も多く、かつ新規治療法が強く求められる、アンメット・メディカル・ニーズの高い疾患です。

 他方、iPS細胞を用いた心筋再生医療は、心臓移植・補助人工心臓よりも多くの患者さんへの適用を目指すことができます。すなわち、心臓移植を待つ厳しい病態の患者さんへの適用のみならず、病態の早期段階での治療の選択肢としても、心機能の改善、悪化の阻止、病状進行を遅らせるなどの期待があります。多くの患者さんに適用可能になることが望まれております。(図3,図4)


 ④ 当社事業のバリューチェーン、パートナーについて

 当社事業におけるバリューチェーンは、研究、開発、製造、輸送、販売から構成されます。大学病院や公的研究機関等に加え企業等の開発パートナーとの共同研究等を通じて、心筋再生に関する最先端の研究を遂行しております。そしてこれら研究成果を、特許として出願することにより知的財産を形成しております。

 当社は他家iPS細胞由来心筋球による心筋再生医療の海外展開を視野に入れ、2021年5月に、デンマークに本社を置くグローバル大手製薬企業であるノボノルディスク エー・エスと、全世界を対象とする独占的技術提携・ライセンス契約を締結いたしました。本契約は、HS-001やHS-005を含む他家iPS細胞由来心筋球(細胞株、投与方法、適応症は問わない)の、日本以外の全世界における臨床開発・製造・販売権をノボノルディスク エー・エスへと付与する一方、国内では当社が製造販売権を保持して、両者共同で商業化し、日本国内事業に関する収益を50:50にてプロフィットシェアする事業提携スキームとなっております。これにより当社の事業収益は、日本国内で薬事承認後に取得する収益に加えて、導出に係る契約一時金(2021年に受領済)、日本及び海外の開発進捗に応じたマイルストン収入(一部受領済)、並びに海外での製品上市後のロイヤルティ収入及び販売マイルストン収入から構成されます。契約一時金及び各種マイルストン収入は、最大で合計598百万米ドルとなり、海外で販売開始後は、海外年間純売上高に応じて漸増する1桁後半~2桁前半パーセントのロイヤルティ収入も受領いたします。

 他家iPS細胞由来心筋球の日本国内の開発については、現在は当社単独で進めており、開発業務委託機関(CRO)である㈱リニカルの支援を得て治験実施中です。治験製品の製造については、製造開発受託機関(CDMO)である㈱ニコン・セル・イノベーションへ、また、心筋球や移植針などの移植デバイスの輸送は再生医療に実績のある㈱メディパルホールディングスの100%子会社であるSPLine(エスピーライン)㈱へ委託しております。

 なお、当社の保有する特許の実施権は、他家iPS細胞を用いるヒトへの治療用途に限ってノボノルディスク エー・エスに付与されており、それ以外の領域である他家iPS細胞を用いるヒト以外の治療用途や研究用途、及び自家iPS細胞を用いる治療等については、当社が全世界での実施権を保持しております。


(2)技術及び開発品の特徴

 治療薬の開発は、技術の進化に伴って一般的に、体全体に効果を持つゆえに全身性の副作用が出てしまうものから、患部を局所的に治療ができる高い有効性と限定的な副作用が両立できるものへと進化しており、例えば抗がん剤であれば、化学療法が開発された後、分子標的薬が生まれ、現在では血液がん向けに患者自身の免疫を活用した細胞治療薬(CAR-T)が実現されています。心臓領域の治療法では、標準治療薬の開発が進んだ後、近年では、心不全の近接疾患である肥大型心筋症の治療薬として、心臓の筋肉の収縮・拡張をコントロールする医薬品が実現し、新たなブロックバスターになり得ると期待されております。

 再生医療によって心機能改善に取り組む技術開発においては、当社の代表取締役社長である福田惠一が1999年に骨髄間葉系幹細胞から心筋細胞の分化誘導に世界で初めて成功して以降、多くのグループや企業が世界中で試みており、実用化に至る製品も出てきました。しかしながら、それらの多くは、心筋細胞以外の細胞、例えば間葉系幹細胞や骨格筋芽細胞などを移植し、それらの細胞が出す分泌物が移植先の心機能の改善を促す間接的な治療アプローチ(パラクライン効果)でした。


② 当社独自の技術

 当社が開発している再生医療等製品候補である他家iPS細胞由来心筋球、および自家iPS細胞由来心筋球には複数のステップが必要であり、各段階の重要プロセスにおいて当社は独自の技術ノウハウや知財を確立しております。

 他家iPS細胞由来心筋球では、上述のようにiPS細胞は既に作製済みで、既にセルバンク化されていますが、自家iPS細胞由来心筋球では、患者さんの血液等からiPS細胞を製造(a)する必要があります。以降のステップは共通していますが、iPS細胞を大量培養し心筋の中でも心室筋に選択的に分化誘導(b)して大量作製した後、当社が開発した純化精製技術で未分化iPS細胞及び非心筋細胞を除去(c)し心筋細胞の純度を98%以上へ引き上げる徹底した純化を進めます。その後、約1千個の心筋細胞の塊である「心筋球」を大量に作製(d)し、心臓を傷つけないように先端を加工した特殊な注射針(e)を用いて開胸手術時に心臓に心臓外壁から直接移植します。


(3)開発パイプライン

 当社は、重症心不全の中でも特に収縮不全の重症心不全を対象に、他家iPS細胞由来心筋球による治療法の開発を進めております。

 収縮力が低下する重症心不全の原因として、大きく虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症などで虚血、すなわち、心臓に十分血がいきわたらず、血液が運搬する酸素と栄養素が心筋に供給されず心臓が酸欠状態となり胸痛が起こるもの)と拡張型心筋症(心臓の筋肉そのものの異常により心臓の筋肉が薄くなり拡張して収縮力が低下するもの)の2つがありますが、当社の開発品は原因疾患にかかわらずに効果を示せると考えられ、これらの両方を対象として考えております。疾患調査に関する論文などの公開情報及び市場調査などの結果をもとにした当社推計では、虚血性心疾患では、収縮不全の患者層が45%~50%、虚血性且つ難治性の患者層であるニューヨーク心臓病協会(NYHA)分類のII度~IV度を全体の20~30%として、対象患者の母集団としては日本約16万人、米国70~80万人、全世界ベースで約700万人が存在し、また、難病指定をされている拡張型心筋症では日本2万人、米国8~12万人が存在すると想定されます。

 心筋再生医療を普及させ、世界中の患者さんにお届けするためには、移植方法と免疫拒絶の抑制の2つの側面からパイプラインを展開する必要があると考えております。そのために、当社では、リードパイプラインであるHS-001の、最も確実な移植方法である開胸手術下での移植から臨床開発に着手しつつ、同時に以下の当社パイプラインように開発しております。


【業績等】

決算期 種別 売上高 営業利益 経常利益 純利益

2024/10 単独中間実績 153 -720 -719 -720

2024/10 単独会社予想 153 -1,965 -1,798 -1,798

2023/10 単独実績 344 -1,459 -1,456 -1,473

2022/10 単独実績 499 -1,458 -1,410 -1,412


決算期 種別 EPS BPS 配当

2024/10 単独会社予想 -109.09 239.07 0.00


上場時発行済株数 21,996,900株(別に潜在株式1,004,000株)

公開株数 2,071,900株(公募1,801,700株、オーバーアロットメント270,200株)

調達資金使途 支払手数料、消耗品費、人件費や採用費、地代家賃、その他経営管理に必要な各種費用


募集を行う地域

欧州及びアジアを中心とする海外市場(ただし、米国及びカナダを除く。)


PER:

PBR:

配当利回り:

公募時吸い上げ資金:24.0億

公募時時価:255億

​   

【株主構成】 

福田恵一 代表取締役社長 3,200,000 15.09% 180日

SBI Ventures Two(株) 投資業(ファンド) 2,236,800 10.55% 180日・1.5倍

AngelBridgeDeal-by-Deal F5号(株) 投資業(ファンド) 1,890,400 8.92% 180日・1.5倍

SBI AI&Blockchain投組 投資業(ファンド) 1,539,200 7.26% 180日・1.5倍

秋山琢己 特別利害関係者など 1,120,000 5.28% 180日

古川俊治 取締役 1,120,000 5.28% 180日

河西佑太郎 取締役 800,000 3.77% 180日

AstellasVentureManagement LLC. 投資業(ファンド) 708,800 3.34% 180日・1.5倍

プライベート・エクイティ・コインベスト2号投組 投資業(ファンド) 485,600 2.29% 180日・1.5倍

伊藤忠ケミカルフロンティア(株) 資本業務提携先 481,600 2.27% 180日・1.5倍


​本募集に関し、貸株人である福田惠一、当社株主である秋山琢己、古川俊治、河西佑太郎、Astellas Venture Management LLC.、株式会社JMDC、志水秀行、安井季久央、澁谷工業株式会社、藤田淳、湯浅慎介、金澤英明、勝俣良紀、遠山周吾、関倫久、井上北斗、林正栄、桐谷直毅、キッズウェル・バイオ株式会社、高野六月、平野達義、菊川知之及びその他19名並びに当社新株予約権者である金子健彦は、SMBC日興証券株式会社(以下「主幹事会社」という。)に対して、本募集に係る元引受契約締結日に始まり、上場(売買開始)日から起算して180日目の2025年1月25日までの期間中は、主幹事会社の事前の書面による承諾を受けることなく、元引受契約締結日に自己の計算で保有する当社普通株式(潜在株式を含む。)及び当社普通株式を取得する権利を有する有価証券の発行、譲渡又は売却等を行わない旨を約束しております。

 当社株主であるSBI Ventures Two株式会社、Angel Bridge Deal-by-Deal Fund5号株式会社、SBI AI&Blockchain投資事業有限責任組合、プライベート・エクイティ・コインベスト2号投資事業有限責任組合、伊藤忠ケミカルフロンティア株式会社、協創プラットフォーム開発1号投資事業有限責任組合、ニッセイ・キャピタル11号投資事業有限責任組合、株式会社メディパルホールディングス、五味大輔、SMBCベンチャーキャピタル6号投資事業有限責任組合、ニッセイ・キャピタル9号投資事業有限責任組合、KII2号投資事業有限責任組合、MIJ Biotech-Japan 投資事業有限責任組合、SMBCベンチャーキャピタル5号投資事業有限責任組合、MIJパートナーズ有限責任事業組合及び合同会社エムズインベストメントは、主幹事会社に対して、本募集に係る元引受契約締結日に始まり、上場(売買開始)日から起算して180日目の2025年1月25日までの期間中は、主幹事会社の事前の書面による承諾を受けることなく、元引受契約締結日に自己の計算で保有する当社普通株式及び当社普通株式を取得する権利を有する有価証券の発行、譲渡又は売却等(ただし、その売却価格が募集における発行価格又は売出しにおける売出価格の1.5倍以上であって、主幹事会社を通して行う東京証券取引所での売却等は除く。)を行わない旨を約束しております。

 

【代表者】

代表者名 福田 恵一(上場時67歳2カ月)/1957年生

本店所在地 東京都港区芝浦

設立年 2015年

従業員数 39人 (2024/05/31現在)(平均43.7歳、年収805.2万円)

事業内容 重症心不全患者を対象としたiPS(人工多能性幹)細胞由来心筋球移植治療をはじめとする再生医療など製品の研究・開発

URL https://heartseed.jp/

株主数 66人 (目論見書より)

資本金 50,000,000円 (2024/06/26現在)

代表者生年月日 1957年05月23日生まれ

代表者略歴

1987年04月 慶應義塾大学助手

1991年06月 国立がんセンター研究所に留学

1992年08月 米国ハーバード大学ベスイスラエル病院分子医学教室に留学

1994年08月 米国ミシガン大学心血管研究センターに留学

1995年01月 慶應義塾大学医学部循環器内科助手

1999年04月 同大学医学部講師

2005年04月 同大学医学部再生医学教授

2010年03月 同大学医学部循環器内科教授


【幹事団】

主幹事証券 SMBC日興 - -

引受証券 SBI - -

引受証券 野村 - -

引受証券 楽天 - -

引受証券 松井 - -

引受証券 マネックス - -

引受証券 極東 - -


【参考類似企業】 時価総額(7/3)

2370 MDNT 113億円

4894 クオリプス 570億円

4896 ケイファーマ 116億円


【私見】

 心臓関連のバイオベンチャーで、評価は出来そうなバイオベンチャーですが、売上少なく赤字の財務内容を見ると投資対象外になってしまいます。そうは言っても、直近2社のバイオベンチャーのスタート良かったので、ここも安い場面では上がる可能性もあると思います。それなりの規模で、VCに1.5倍のロック制限もあることから高値追いは危険だと思います。


想定価額:1110円

仮条件上限:1160円

初値予想:1300円

ブック申し込み度・・・中立

セカンダリー期待度・・・中立

総合評価:3

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