2024年1月27日土曜日

IPO分析(Veritas In Silico)

 【事業内容】

​(1) 事業の背景

 疾患の発症のメカニズムは多種多様ですが、主に疾患の原因となるタンパク質(以下「疾患関連タンパク質」という)の異常な働きによって引き起こされ、現在の医薬品市場は、直接疾患関連タンパク質に結合し、その機能を制御することで異常な働きを止める医薬品(低分子医薬品、抗体医薬品など)が主流です。しかし、これらの医薬品が創薬標的として狙うことのできる疾患関連タンパク質の数はもともと限られているため、長年にわたる医薬品の研究開発※9の結果、新薬開発が求められている医療ニーズの高い疾患に対して新たに医薬品を創出することが難しくなっています。このように、創薬標的となる疾患関連タンパク質が限られてきている現状、すなわち「創薬標的の枯渇」が、製薬業界共通の課題となっています。

 mRNAは、DNAから特定のタンパク質に関する遺伝情報を書き写した設計図です。疾患関連タンパク質の設計図であるmRNAの機能を制御することができれば、疾患関連タンパク質の機能を直接医薬品で制御する場合と同様に、その疾患関連タンパク質が原因となる疾患を治療することが可能になり、「創薬標的の枯渇」の解決策につながることが期待されます。

 mRNAを標的とする医薬品は、核酸医薬品(DNAやRNAといった遺伝情報を司る物質「核酸」そのものを利用した医薬品のこと)によって実現されています。しかし、核酸医薬品は経口投与が困難であるだけでなく製造コストが高く、市場の拡大には限界があると考えられます。当社は、低分子医薬品のように経口投与が可能で患者様の負担が少なく、開発・製造技術が確立している安価な医薬品でmRNA標的創薬を実現することが、製薬業界の真のニーズであり、mRNA標的低分子医薬品は今後の成長市場になる可能性があると考えております。それにもかかわらず、mRNA標的低分子医薬品はこれまでほとんど創出されておりませんでした。低分子創薬では、創薬標的全体の構造を精密に解析し、創薬標的上に低分子医薬品が結合して薬効を示すことが期待できる構造を最初に特定すること(このプロセスを、以下「ターゲット探索」という)が重要です。しかしながら、mRNAは1つの決まった構造をとらず、創薬研究を始める際に精密な構造の解析を行うことが困難であるため、mRNAを創薬標的にして低分子創薬を実施することは難しいという業界の常識がありました。このような状況において、当社の創業者である中村が2000年代前半より技術開発してきたインシリコ※11RNA構造解析技術により、mRNAを創薬標的としたターゲット探索が可能になり(詳細は「(2) 当社の事業領域 ② ibVISⓇプラットフォーム c mRNA標的低分子創薬を可能にするインシリコRNA構造解析技術」を参照)、ターゲット探索の結果を活用した実用的な低分子化合物のスクリーニング※12法(様々な化合物の中からある一定の基準を満たす化合物を選択するためのプロセス)と合わせて、当社の創薬プラットフォームの基礎となっています。

 現在の医薬品市場の中心の一つであるタンパク質標的低分子医薬品とその創薬標的であるタンパク質の関係は、ちょうど「鍵」と「鍵穴」の関係に例えられ、低分子創薬とは、創薬標的上に「鍵穴」を探索し、様々な工程(「鍵候補」を見つけるスクリーニングなど)を経て「鍵穴」にピタリとはまる「鍵」を創出する一連のプロセスであると言えます。

 当社は、独自のインシリコRNA構造解析により、多くのmRNA上には局所的に低分子医薬品(「鍵」)が結合できる構造(「鍵穴」)があること(当社では、mRNA上に局所的に存在する構造を「部分構造」、そのうち標的として定める構造を「ターゲット構造」と呼んでおり、「鍵穴」は「ターゲット構造」に該当します)、しかも多くの場合、複数の「鍵穴」が存在することを見いだしました。また、これらの「鍵穴」に対して「鍵候補」を見つけるための独自改良したスクリーニング法の確立等により、タンパク質標的低分子創薬と同様に、新しい創薬アプローチであるmRNA標的低分子創薬の実施が可能になっています。

 mRNA標的低分子創薬は、当社のインシリコRNA構造解析の技術を用いることにより、新薬開発のニーズが高いにもかかわらず、タンパク質を標的とした従来創薬ではこれまで医薬品の研究開発が不可能もしくは困難であった様々な疾患に適用できる潜在性を秘めており、疾患関連タンパク質において大きな割合を占めるブルーオーシャン(競争相手のいない又は競争相手の少ない未開拓な市場)を開拓できる創薬アプローチであると考えております。患者様、製薬業界、そして経済的観点から社会に望まれている低分子医薬品の創出に取り組むことができることから、mRNA標的低分子創薬は次世代創薬の本命の一つとして期待されています。


(2) 当社の事業領域

 インシリコRNA構造解析技術をはじめとしたデジタル技術(informatics)と創薬技術(biology)を統合したibVISⓇプラットフォームを活用したmRNA標的低分子創薬を主事業としており、製薬会社との共同創薬研究を通じて、mRNA標的低分子医薬品の創出に取り組んでいます。

 また、将来の事業の多角化のため、インシリコRNA構造解析技術を応用した各種RNA関連創薬の取り組みも開始しています。

① mRNA標的低分子創薬

a mRNA標的低分子医薬品の作用メカニズム

私たちの体は、各部位の機能に応じて、その機能を発揮するために必要なタンパク質で構成されています。各部位の細胞内では、細胞の核の中にあるDNAがもつ全ての遺伝情報から、各部位に必要なタンパク質の遺伝情報のみがmRNAに書き写されます(転写)。mRNAは核内から外に運び出された後、書き写されたタンパク質の遺伝情報を設計図として、リボソーム※13というタンパク質合成機構に遭遇することでタンパク質の合成が開始されます(翻訳)。タンパク質の翻訳の際、まずリボソームがmRNAの一方の端(5'末端)に取り付き、このリボソームがもう一方の端(3'末端)に向かって進行しながらmRNAの遺伝情報を読み取り、20種類のアミノ酸(タンパク質の構成要素)の中から遺伝情報に対応するアミノ酸をつなげていくことでタンパク質が生成されます。この時、mRNA上にある程度安定な構造があっても、通常ならリボソームが構造をほどいて翻訳していきますが、より強固でほどけにくい構造がmRNA上にある場合には、リボソームによる翻訳反応の進行が妨げられます。

 当社のmRNA標的低分子創薬は、mRNA上にある程度安定で低分子医薬品が結合できそうな部分構造を見いだしてターゲットとし、そのターゲット構造に結合し安定化する低分子医薬品によって、mRNA上により強固でほどけにくい構造体を意図的に構築させることで、リボソームによるタンパク質の翻訳を阻害もしくは制御することを狙っています。これにより、疾患の原因となる疾患関連タンパク質の生成を抑えられれば、従来の低分子医薬品や抗体医薬品等で直接疾患原因タンパク質の機能を阻害もしくは制御する場合と同等の効果が得られると考えられます。


b mRNA標的低分子創薬の特徴 ― 研究開発 ―

 一般的に医薬品の研究開発は、創薬標的を決定した後、医薬品候補化合物※14を創出するまでの創薬研究(研究段階)後、非臨床試験、臨床試験、承認取得(開発段階)完了までに長い年月を要します。当社が製薬会社と実施しているmRNA標的低分子創薬では、タンパク質を標的とした従来の低分子創薬と創薬標的は異なりますが、最終目的物は同じ化学的特性をもつ低分子化合物であることから、表1に示す創薬研究以外の非臨床試験、臨床試験、承認審査、さらには承認後の製造・販売で必要となる技術及びインフラは従来の低分子創薬と共通しています。mRNA標的低分子創薬で臨床試験以降の開発に進んでいる例は世界的にみてもまだありませんが、化学的特性がタンパク質標的低分子創薬の医薬品候補化合物と同等であることに鑑みると、開発以降のリスクや成功確率は概ねタンパク質標的低分子創薬の医薬品候補化合物と同程度であると考えられます。また、低分子医薬品の場合には開発ガイドラインも確立されているため、開発段階以降の障壁は他の新規創薬技術と比較して小さいと考えられます。

  

c mRNA標的低分子創薬の特徴 ― 薬物動態・安全性 ―

 医薬品の創薬研究では、タンパク質標的低分子医薬品の場合には疾患関連タンパク質の機能を抑制する効果など、医薬品の主作用(薬効)だけではなく、医薬品が投与されてから血中へ吸収されるか、血中から目的とする組織・細胞へ移行するかといった点や、医薬品が体内で代謝や排泄される過程、さらには安全性を確保するための毒性の低減、といった様々な課題について検討し、最適化する必要があります(医薬品を投与してから「吸収」「分布」「代謝」「排泄」される過程を「薬物動態」という)。

 mRNA標的低分子創薬の創薬研究においても同様に薬物動態や安全性等の検討・最適化が必要ですが、タンパク質標的低分子医薬品と比べてmRNA標的低分子創薬の研究過程に特有の検討課題は、細胞内で標的とするmRNAに作用して疾患関連タンパク質を減少させられるかという「細胞内での効果」の工程のみであり、それ以外はタンパク質標的低分子創薬と共通しています。つまり、創薬研究段階におけるmRNA標的低分子創薬の新規創薬技術として特有のリスクは、概ね「細胞内での効果」が得られるか、という点になります。もちろん他の工程にもリスクはありますが、そのリスクはタンパク質標的低分子創薬と同様であると考えられ、この点については、長年の創薬研究を通じて各製薬会社には技術やノウハウが豊富に蓄積されています。逆に言うと、「細胞内での効果」は十分にあっても、mRNA標的低分子創薬特有ではない薬物動態や安全性により、創薬研究が中断するリスクがあるため、かかるリスクに対応した上でmRNA標的低分子創薬により患者様に医薬品を届ける観点からは、長年の創薬研究を通じて蓄積された各製薬会社の技術やノウハウが重要であると考えられます。当社ではこのリスクを鑑み、mRNA標的低分子創薬により患者様に医薬品を届けるためには、より多くの製薬会社と共同創薬研究を実施することが重要であると考え、「プラットフォーム型」のビジネスに注力しています。

 

② ibVISⓇプラットフォーム

a 多種多様な疾患に適応可能

当社は、これまで国内外の多くの製薬会社に、当社のibVISⓇプラットフォームの創薬技術及びデジタル技術を紹介してきました。これらの製薬会社より、ibVISⓇプラットフォームでmRNA標的低分子創薬を実施したいと開示をうけた創薬対象遺伝子(Gene of Interest;GOI)の数は既に100を超え、そこから推定される疾患領域は、がん領域、中枢神経、各種希少疾患の順に多く、その他は循環器疾患、免疫疾患、感染症など多種多様です。これは、製薬会社という創薬の専門家から見て、ibVISⓇプラットフォームが様々な疾患に適応可能であると考えられていることを示唆していると当社では考えております。中でも市場の大きいがん領域の割合が突出しており、医薬品が血液脳関門(神経細胞に影響のある物質をブロックする保護システム。Blood Brain Barrier;BBB)を通過する必要のある中枢神経疾患の割合ががん領域に続いております。これらは、製造コストが低く巨大な市場にも供給可能であり、BBBを通過できる低分子医薬品の強みを活かせる疾患領域であると考えられます。


 b ワンストップで医薬品候補化合物まで取得

当社のibVISⓇプラットフォームは、mRNA上に存在する低分子医薬品の「鍵穴」の候補となる部分構造を網羅的に解析し、その中から標的に適した「鍵穴」すなわちターゲット構造を定める「ターゲット探索」から、数万から数十万の低分子化合物の中からターゲット構造に対して結合が認められる化合物を実験的に選択する「スクリーニング」、スクリーニングで取得したヒット化合物※15とターゲット構造の結合の強度や結合の特徴を詳細に検証する「ヒット化合物検証」、ヒット化合物検証により取得したリード化合物※16を医薬品レベルにまで効果を高める「リード化合物最適化」により、最終的に非臨床試験以降に進める医薬品候補化合物を取得するまで、mRNA標的低分子創薬に必要な全ての創薬技術とデジタル技術を備えていると当社は考えております(図8、表2)。さらに、それらの創薬技術とデジタル技術が単に個々の技術としてではなく、一つの創薬システムとして統合されており、各製薬会社はibVISⓇプラットフォームを活用することで、mRNA標的低分子創薬で直面する多くの課題をワンストップで解決することが可能になると当社は考えております。特に当社の「ターゲット探索」は、独自のデジタル技術を活用したインシリコRNA構造解析により、製薬会社が任意に選択したmRNAから高速かつ正確に複数のターゲット構造を探索することが可能であり、当社の競争優位性の一つとなっています。


c mRNA標的低分子創薬を可能にするインシリコRNA構造解析技術

mRNAは分子内で相互作用して立体構造をとる巨大分子であり、細胞内の環境下では1つの決まった立体構造をとらず、様々なパターンの構造をとってそれらが混在するという性質があります。よって、一般的に一定の構造をとるタンパク質を標的とする既存創薬と同様の理論では、mRNA標的低分子創薬を実現することはできませんでした。

 当社の中村は、約20年にわたる創薬研究の経験に基づき、1つの決まった状態をとらない事象を取り扱う統計力学理論及び熱力学理論がmRNAの性質を解析する上で有用な方法であることを見出しました。具体的には、統計力学理論によりmRNA上に局所的に存在する部分構造の存在確率を計算し、熱力学理論により各部分構造のエネルギー状態の計算から安定性・不安定性を評価します。このように、既存創薬の研究領域(化学~生物学)に統計力学理論及び熱力学理論を適切に応用することにより、mRNA上の各部分構造を存在確率や安定性・不安定などの各指標にもとづき定量的に評価する方法論を確立し、その結果、mRNA上にはいつも同じ構造を取ろうとする安定な部分構造が存在することを明らかにしました。

   

③ その他のmRNA関連創薬の取組み

 インシリコRNA構造解析は、mRNA標的低分子創薬のターゲット探索だけではなく、mRNAの構造を詳細に解析できるという一般性から様々な創薬への応用が可能であると考えております。当社は、事業の安定性を担保する観点から、主事業のmRNA標的低分子創薬に続く将来事業を準備しています。

 具体的には、これまで理論的な配列設計が困難とされてきた核酸医薬品の一種であるアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)※28の配列設計にインシリコRNA構造解析を応用しております。当社のインシリコRNA構造解析により、短期間で医薬品候補化合物を取得でき(当社では最短8カ月で取得)、その結果研究開発費を抑えることが可能になると考えております。当社はこれまでに、ASOの創薬研究で医薬品候補化合物を獲得し、物質特許を取得した実績もあるため(詳細は「(4) プロジェクトの進捗状況 ③ その他プロジェクト(自社研究)」を参照)、将来的に社内でもパイプラインを保有する方針に転換(ビジネスモデル転換)する際には、低分子化合物と同様にASOを有力な自社パイプライン候補とすることを想定しています(詳細は「(3) ビジネスモデルの特徴 ④ ビジネスモデルの転換」を参照)。

 

(3) ビジネスモデルの特徴

① ビジネスモデルの概要

 より多くのmRNA標的低分子医薬品を迅速に社会に届けるため、製薬会社の幅広いニーズに応える汎用性の高いibVISⓇプラットフォームを武器として、複数の製薬会社と多数の共同創薬プロジェクトを同時に進行させる「プラットフォーム型」のビジネスを展開しています(図12)。製薬会社との契約では、契約一時金、研究支援金にとどまらず、マイルストーン、ロイヤリティ等の対価を規定することにより、契約締結直後から長期的かつ継続した事業収益の確保を目指します。当社のようなバイオテク企業にとって、複数の共同創薬プロジェクトを同時進行するプラットフォーム型ビジネスは、安定した事業収益を確保する観点や、製薬会社との提携によってmRNA標的低分子医薬品の潜在的な市場のシェアを確保して数多くの医薬品を患者様にお届けする観点から、合理的なビジネスモデルであると考えております。

 

② 契約形式

 製薬会社と医薬品候補化合物を取得するまでの創薬研究を共同で実施する共同創薬研究契約を締結することを基本としています。共同創薬研究契約では、製薬会社から創薬対象とするmRNA(標的遺伝子)の情報を受領後、その標的遺伝子ごとにプロジェクトを設定し、各プロジェクトの進捗状況に応じて一連の継続的な事業収益が得られるように規定しています。

 当社と製薬会社の共同創薬研究契約に基づくパートナーシップ(以下、当社と共同創薬研究契約等に基づき、共同で創薬研究を実施する製薬会社を「パートナー」という)は、当社技術を用いて当社とパートナーが共同で医薬品候補化合物を創出する創薬研究段階と、医薬品候補化合物の創製における当社貢献部分をパートナーに譲渡し、パートナーが医薬品候補化合物の開発・販売を行うことで、当社に事業収益が発生する開発・販売段階で構成されます。各段階において当社が計上する主な事業収益は以下の通りです。


a 創薬研究

当社の共同創薬研究契約では、通常締結時にibVISⓇプラットフォームの使用に対する技術アクセスフィー等として「契約一時金」をパートナーより受領します。研究開始後、研究実施に対する費用支援・対価等として標的遺伝子ごとに設定された「研究支援金」を研究期間中毎年受領します。また、創薬研究中に追加的な研究が必要となる場合には、追加の「研究支援金」を標的遺伝子ごとに受領します。さらに、パートナーと事前にいくつかの研究達成目標、すなわちマイルストーンを設定し、当該マイルストーンを達成した場合には、パートナーより「研究マイルストーン」を受領します。


b 開発・販売

 当社の共同創薬研究契約では、基本的に、創薬研究における成果の当社貢献度に基づき、当社が開発・販売において受領する「開発マイルストーン」、「ロイヤリティ」、「売上マイルストーン」等の経済条件についても以下のとおり規定しています。

 創薬研究で医薬品候補化合物を取得し、パートナーにより非臨床試験に進む判断がされた場合には、当社はこの段階で、最初の「開発マイルストーン」を受領します。その後、医薬品候補化合物の開発はパートナーに委ねられますが、パートナーによる開発が進み、臨床試験に移行した場合には、臨床試験の段階ごとに追加的に「開発マイルストーン」を受領します。さらに、最終的に医薬品として上市された場合には、売上金額に一定の料率を乗じて得られる金額を「ロイヤリティ」として受領します。加えて、上市された医薬品の年間の売上高が所定の売上額に達した場合には、「売上マイルストーン」を受領します。


③ 知的財産戦略(特許及びソフトウェア著作権)

 ibVISⓇプラットフォームの「ターゲット探索」と「スクリーニング」の特許による権利化と、各種自社製作ソフトウェアで構成されるデジタル技術の秘匿化により、プラットフォーム全体の独占性を二重に担保しています。

 特許「RNAの機能を制御する化合物のスクリーニング方法」により権利化した技術は、デジタル技術の「MobyDick2D」と創薬技術の「qFRET」です。主に、これらの技術を利用するibVISⓇプラットフォームの「ターゲット探索」と「スクリーニング」では、権利化した特許によって他社の利用を排除でき、当社の優位技術として製薬会社に活用いただいています。

 

④ ビジネスモデルの転換

 mRNA標的低分子創薬の潜在的な市場のシェアをある程度確保した後に、プラットフォーム型ビジネスにくわえ、自社でパイプラインの開発も進めるハイブリッド型ビジネスへの転換を計画しています。プラットフォーム型ビジネスによりパートナー数を増やし、パートナーから中長期的に充分な収益が見込めるようになった段階(当社では2026年頃と想定)で、自社パイプラインの開発を開始することを目指しますが、当面は、開発の早い段階で製薬会社にライセンスアウトする方針です。

 自社パイプラインの候補としては、「(4) プロジェクトの進捗状況 ② mRNA標的低分子創薬のプロジェクト(自社研究) ③ その他プロジェクト(自社研究)」のmRNA標的低分子医薬品及び核酸医薬品のプロジェクトのほか、当社では核酸医薬品の医薬品候補化合物を取得するまでに要する期間が最短8か月と短いことから、新規の核酸医薬品のプロジェクトも自社パイプラインとして有力な候補になると考えています。


(4) プロジェクトの進捗状況

① mRNA標的低分子創薬のプロジェクト(共同創薬研究)

mRNA標的低分子創薬のプラットフォーム型ビジネスを展開する当社は、多額の開発費を投入して少数の自社パイプラインを育てる代わりに、共同創薬研究のパートナー数を増やすとともに、各パートナーとのプロジェクトを進捗させることで、相乗的な事業拡大を図っています。当社はこれまでに、プラットフォーム型ビジネスの特徴を活かしたパートナーとの共同研究を通じてibVISⓇプラットフォームの技術力向上を達成し、より高収益の共同創薬研究契約の締結が可能になりました(図16)。現在、共同創薬研究のパートナー4社(東レ株式会社、塩野義製薬株式会社、ラクオリア創薬株式会社、武田薬品工業株式会社)とのプロジェクトが進捗しています。

創薬ニーズへの対応や、当社の将来の自社パイプラインの準備等で本格的に事業提携することを想定しています。


 共同創薬研究中のパートナー4社とのプロジェクトが進捗しており、4社とのプロジェクト中で最も進んでいるプロジェクトは、現在「ヒット化合物検証」を実施中の段階です。

 当社は、共同研究及び共同創薬研究の契約にもとづき、これまでに合計5.5億円の事業収益を獲得しています(2023年9月末現在)。今後は、共同創薬研究中のパートナー4社との契約にもとづき、短期的(創薬研究期間中)には17.8億円(このうち5.5億円は取得済)の研究支援金又は研究マイルストーン、中期的(開発期間中)には80.5億円の開発マイルストーンを事業収益として獲得する可能性があります。さらに、医薬品が上市した場合には、長期的(販売期間中)に、1桁台前半パーセント(%)のロイヤリティ及び販売額に応じたマイルストーン収入(最大1,050億円)が見込まれます。ただし、東レの場合には、医薬品候補化合物の権利は東レと当社で共有することになっており、当社は化合物の持分に応じた収益を受領することになります。

 なお、研究・開発・売上のマイルストーンについては、いずれも既存のプロジェクトが全て成功した場合の最大値を示しています。創薬の成功確率は相対的に高くはなく、現実的に全てのプロジェクトが成功するわけではなく、一部又は全部のプロジェクトが成功に至らない場合や、成功に至った場合であっても当初想定した売上が達成できない場合等には研究・開発・売上のマイルストーンが減少する可能性がある点に十分ご留意ください。

 

② mRNA標的低分子創薬のプロジェクト(自社研究)

 mRNA標的低分子創薬は様々な疾患への応用展開が可能なことから、共同創薬研究開始後、パートナーあたりのプロジェクト数が積み上がる場合がある一方、パートナー側の社内優先順位等の関係で、一部のプロジェクトが中止される場合もあります。当社は、パートナーとの契約締結の際に開発・製造・販売ライセンスに関する取り決めを盛り込む場合を除き、中止されたプロジェクトの成果の当社への譲渡について契約書に規定することにより、自社プロジェクトへ転用することを可能にしています。実際に、中止されたプロジェクトのうち有望なプロジェクトについては自社プロジェクトに転用しており、事業開発や創薬プラットフォームの技術開発のために活用しています。

 当社のmRNA標的低分子創薬のプロジェクトは、医療ニーズの高いがん領域が中心であり、将来的に当社のビジネスモデルをハイブリッド型に移行する際には、これらのプロジェクトが自社パイプラインの有力な候補になると考えております。現時点においては、一部のプロジェクトについて、事業開発や創薬プラットフォームの技術開発を目的とした社内研究を実施するにとどめており、具体的に自社パイプライン候補として進捗しているプロジェクトはありません。


③ その他プロジェクト(自社研究)

 希少疾患を中心に、将来のハイブリッド型ビジネスを見据えた核酸医薬品 (核酸医薬品の一種であるASO) のプロジェクトを保有しています。また、mRNA医薬品及びncRNA標的医薬品のプロジェクトは、現在基礎研究(ターゲット探索)を実施中です。

 核酸医薬品のプロジェクトは、急性腎不全や脱毛症を対象疾患とした遺伝子p53に対するASO、及び東京慈恵会医科大学の岡野ジェイムス洋尚教授との共同研究により創出された、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患を対象疾患としたASOであり、両プロジェクトともに医薬品候補化合物を取得して物質特許を出願し、p53のASOについては日本で特許が権利化されました。

 mRNA医薬品(mRNA補充療法)では、タンパク質補充療法の実例があるファブリー病とハンター症候群に着目し、これら疾患の治療で補充すべきタンパク質の設計図となるmRNAをもとに、血中で安定し、自己凝集しないmRNA医薬の配列設計を開始しています。

 ncRNA標的医薬品のプロジェクトとしては、ncRNAの中でも機能が解明され、多発性骨髄腫への関与がわかっているncRNAに対して、核酸医薬品を創出するプロジェクトを開始しています。

 

【業績等】

決算期 種別 事業収益 営業利益 経常利益 純利益

2023/12 単独3Q累計実績 279 39 37 35

2023/12 単独会社予想 359 35 34 31

2022/12 単独実績 178 -138 -138 -141

2021/12 単独実績 59 -235 -240 -232


決算期 種別 EPS BPS 配当

2023/12 単独会社予想 5.67 286.03 0.00


募集を行う地域

欧州及びアジアを中心とする海外市場(ただし、米国及びカナダを除く。)


上場時発行済株数 6,301,314株(別に潜在株式611,256株)

公開株数 920,000株(公募800,000株、オーバーアロットメント120,000株)

調達資金使途 研究開発費、設備投資資金、運転資金


PER:

PBR:

配当利回り:

公募時吸い上げ資金:9.2億

公募時時価:63億

​ 

【株主構成】 

中村慎吾 代表取締役社長 1,426,000 23.33% 180日

三菱ガス化学(株) 特別利害関係者など 731,256 11.96% 180日

New Life Science1号投組 投資業(ファンド) 556,444 9.10%

三菱UFJライフサイエンス1号投組 投資業(ファンド) 512,640 8.39%

上村孝 取締役 498,000 8.15% 180日

IEファスト&エクセレント投組 投資業(ファンド) 344,000 5.63%

梨本正之 研究顧問 298,390 4.88%

名大・東海地区大学ベンチャー1号投組 投資業(ファンド) 285,834 4.68%

エムスリー(株) 特別利害関係者など 240,000 3.93%

松岡弘之 取締役 208,000 3.40%

みずほ成長支援第3号投組 投資業(ファンド) 166,666 2.73%


 本募集に関連して、貸株人である中村慎吾並びに当社株主(新株予約権者を含む。)である三菱瓦斯化学株式会社、上村孝、梨本正之、松岡弘之、小南欽一郎、篠阿弥宇、甲田伊佐男、森下えら、木下広志、高田遼平、萩原宏昭、牟田祐子、黒田ほづえ、神田希、杉浦愛妙、大津舞菜、河合剛太、岡野ジェイムス洋尚、中谷和彦、楢原芽吹、廣岡穣、秋葉薫、渡邊伸一及び古谷誠は主幹事会社に対し、元引受契約締結日から上場(売買開始)日(当日を含む。)後180日目の2024年8月5日までの期間中、主幹事会社の事前の書面による同意なしには、当社普通株式の売却(ただし、オーバーアロットメントによる売出しのために当社普通株式を貸し渡すこと等を除く。)等を行わない旨合意しております。

 また、当社株主であるNew Life Science 1号投資事業有限責任組合、三菱UFJライフサイエンス1号投資事業有限責任組合、IEファスト&エクセレント投資事業有限責任組合、名古屋大学・東海地区大学広域ベンチャー1号投資事業有限責任組合、エムスリー株式会社、みずほ成長支援第3号投資事業有限責任組合、新生企業投資株式会社、SMBCベンチャーキャピタル4号投資事業有限責任組合、みずほライフサイエンス第1号投資事業有限責任組合、SMBCベンチャーキャピタル6号投資事業有限責任組合、グローバル・ブレイン7号投資事業有限責任組合、KDDI新規事業育成3号投資事業有限責任組合及びイノベーション・エンジンPOC第2号投資事業有限責任組合は、主幹事会社に対し、元引受契約締結日から上場(売買開始)日(当日を含む。)後90日目の2024年5月7日までの期間中、主幹事会社の事前の書面による同意なしには、当社普通株式の売却等を行わない旨合意しております。

【代表者】

代表者名 中村 慎吾(上場時51歳8カ月)/1972年生

本店所在地 東京都品川区西五反田

設立年 2016年

従業員数 15人 (2023/11/30現在)(平均44.2歳、年収682.4万円)

事業内容 mRNA(メッセンジャーリボ核酸)を標的とする低分子創薬や核酸創薬のプラットフォーム事業

URL https://www.veritasinsilico.com/

株主数 19人 (目論見書より)

資本金 90,000,000円 (2024/01/05現在)

代表者生年月日 1972年06月07日生まれ

代表者略歴

2003年10月 武田薬品工業株式会社入社

2011年05月 Dow Chemical Japan 入社 営業部長補佐

2011年11月 Catalent Pharma Solutions 入社 事業開発部長

2015年07月 株式会社産業革新機構 入社 戦略投資ディレクター

2016年11月 当社 代表取締役就任(現任)


【幹事団】

主幹事証券 みずほ - -

引受証券 SMBC日興 - -

引受証券 三菱UFJモルガン・スタンレー - -

引受証券 楽天 - -

引受証券 松井 - -

引受証券 あかつき - -


【参考類似企業】時価総額(1/10)

4571 NANO 704億円

4583 カイオム 71億円

4587 ペプチド 1,360億円

4591 リボミック 39億円


【私見】

 バイオ銘柄ですが、mRNAバイオベンチャーということで強みはあり黒字なので、赤字の創薬系VCとは一味違った銘柄と感じます。短期的な収入を確保しつつ、中期的にはビックマネーも狙える仕組みにはなっており夢のある銘柄ですが、世界的にみると現実難しいのかとも思います。長期では分かりませんが、短期的には仮条件も想定を下回り、ロック基準も甘いので公募前後の動きと予想します。


想定価額:1120円

仮条件上限:1000円

初値予想:1000円

ブック申し込み度・・・中立

セカンダリー期待度・・・中立

総合評価:3

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