2024年4月9日火曜日

IPO分析(コージンバイオ)

 【事業内容】

・組織培養事業

 ヒト、動物、昆虫などの細胞を増殖させることを目的とした細胞培養用培地の開発・製造・販売をしております。細胞培養用培地は、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、微量金属、無機塩などから構成される溶液で、ヒトや動物の血液成分であるウシ血清(FBS)などを添加して使用する基礎培地と血清の添加を必要としない無血清培地に分類することができます。

 基礎培地は、1960年代の細胞培養の研究の黎明期に開発された培地で、含有される成分のすべてが公開されていることがその特徴となります。こうした基礎培地は十数種類存在し、基礎研究を中心に世界中の大学、企業等で使用されております。一方、無血清培地は、1986年に狂牛病(BSE)の存在が確認されたことを受け、ウシ血清等を研究等に使用することへの安全性の確保が難しくなったことを背景に開発が進められた培地であります。基礎培地の組成が公開されているのに対し、無血清培地は各社の技術の粋を集めたもので、基本的に組成は非公開とされております。加えて、基礎培地が血清を添加することで、複数種類の細胞を培養できるのに対し、無血清培地は細胞の種類ごとに専用の培地が存在している点も基礎培地と無血清培地の大きな違いであります。

 ウシ血清等を添加している基礎培地が安価であるのに対し、無血清培地は血清の代替として、高額な細胞増殖因子を添加しているため、価格帯は高額となります。しかしながら、血清を添加している基礎培地にはウイルスのコンタミネーションの懸念があるのに対し、無血清培地では、ウイルス等の外来因子を排除することが可能なことから、高額であっても再生医療の研究開発に欠かせない製品となっており、当社としては無血清培地の開発と販売に注力しております。

 これまでは、細胞培養用培地は研究用としての使用が主流でありましたが、近年では、再生医療分野や抗体医薬品の製造などにも多く使用されるようになってきたことから、その市場規模は数年間で急速に成長を続けており、さらに大きな市場に拡大していくと予想しております。特に再生医療分野におきましては、幹細胞、免疫細胞が注目されており、これらの細胞はアンメットメディカルニーズの治療領域を満たすものとして、世界中で盛んに研究が行われております。その中でも間葉系幹細胞(注4)は、こうした再生医療に使用される細胞としては最も有力な細胞の一つであり、当社もKBM ADSCシリーズとして2014年から発売を開始し、主力製品の一つとなっております。また、免疫細胞に代表されるT細胞は、遺伝子改変細胞のターゲットとなっており、最新のがん治療薬として開発が進められております。当社は、こうした免疫細胞を培養する培地の開発を最も得意としており、KBM500シリーズとして販売されている免疫細胞培養用培地は、末梢血から単離したPBMCから目的の細胞であるT細胞やNK細胞を培養した際に、有効な細胞増殖性能があると大学や企業を含む顧客よりご評価いただいております。

 これら培地に加えて、当社は、脳梗塞等の治療で注目される神経幹細胞を培養するKBM Neural stem cell、様々な組織を作製する上で必須となる血管網の構築を促す血管内皮細胞を培養するKBM VEC-1、皮膚の再生に必要となる表皮角化細胞を培養するKBM NHEK-XF2など、再生医療に関連する製品を多数ラインナップしております。

 今後の開発の方向性といたしましては、抗体医薬品の70%以上がCHO細胞により生産されていること、CAR-T細胞等の遺伝子改変細胞を作製するために使用されるウイルスベクターの生産のほぼすべてはHEK293細胞と呼ばれる細胞株が使用されていることから、これらの産業利用される細胞培養用培地の市場規模は、数年で非常に大きく急成長すると予想しており、これらの開発に注力することを予定しております。これら培地は、無血清培地でありながら、細胞増殖因子を含まず、アミノ酸、ビタミン、微量金属などの化学合成物質のみから構成されるChemically Defined(CD)培地で、非常に開発が困難な培地ですが、CHO細胞用培地は現在上市準備をしております。また、HEK293細胞培養用培地に関しましても開発は順調に進んでおり、来年度上市を予定しております。さらに、こうした培地は使用量が数千リットルから数万リットルと大量なため、国内外を問わず粉末での供給が一般的ですが、そうした技術開発にも成功しております。

 再生医療市場は、2020年には0.6兆円であったところ、2040年には11.6兆円の予測(再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業 中間評価 技術評価報告書(2023年3月 産業構造審議会産業技術環境分科会 研究開発・イノベーション小委員会評価ワーキンググループ))となっており、市場規模は拡大傾向にあります。


・微生物事業

 感染症や食品汚染の原因となる微生物を特定するための製品の開発と製造・販売を行っています。目に見えない微小な微生物を特定するためには、微生物に由来する物質を着色したり、微生物そのものを増殖させたりして、人が視覚的に確認できるようにする必要があります。


・細菌検査用培地

 当社は、創業から長年培った微生物そのものを増殖させる細菌検査用培地の製造ノウハウを保持しており、KBMブランドとして多くの製品群を市場に提供しております。

 微生物の増殖のためには、目的とする微生物にとっての最適な環境を整える必要があります。一定の栄養素(アミノ酸、糖質、無機塩類)に加え、特定の栄養素(ビタミン等)や血液を発育成分として要求する微生物、酸素の有無や二酸化炭素濃度(酸化還元電位)、水素イオン濃度(pH)なども微生物によって異なります。従って、ある特定の微生物の生育に適した環境を人工的に模造することで、微生物を選択的に増殖させることも可能であり、このような微生物の培養に適した環境を与える材料を容器に閉じ込めた製品が細菌検査用培地であります。

 細菌検査用培地は、用途に応じて、液体、固体、半流動の状態で利用されます。試料(検体)に含まれる微生物の数を知りたい場合等には固形の細菌検査用培地を、試料(検体)中に含まれる微生物の数が少なく速やかな増殖を期待する場合には液体の細菌検査用培地を、微生物の性状を知りたい場合等には半流動の細菌検査用培地を用います。また、細菌検査用培地は、抗生物質に感受性なのか耐性なのかを判断する場合等にも利用されます。このように細菌検査用培地は、微生物の種類や医療(感染症)、食品(病原菌)、製薬・化粧品(品質)などの検査の目的により、様々な種類の製品が存在し、当社においては2023年3月期に年間300品目を超える細菌検査用培地等を製造販売しております。


・体外診断用医薬品

 身体を直接の被検体とせずに、人に由来する試料を検体とし、検体中の物質等を検出又は測定することにより、診断に用いることの出来る医薬品です。製品として販売する場合は、厚生労働省のガイドラインに基づいた審査を受け、承認基準に適合する必要があります。当社は、微生物に由来する物質を可視化するため、抗原抗体反応を利用した検査キットを開発し、体外診断医薬品の認可を受けた製品化に成功いたしました。この検査キットは、抗体を結合させた金コロイド粒子(粒子径10nmから100nm程度の金の粒子)の共鳴反応が関与しており、金コロイド粒子の集積に基づく発色技術が使用されています(注)。また、抗体は病原体に由来する物質と特異的に反応するため、対象微生物の特定も可能となります。従って、様々な感染症の原因となる微生物を特定するための製品群を開発することが可能となります。近年では、新型コロナウイルス抗原を検査するためのキット「KBMラインチェックnCoV(スティックタイプ)」が、体外診断用医薬品として製造販売許可申請が承認され、ひいては、国からの増産要請を受けて月産最大約20万検体分の製造を行うことで、未曽有の感染拡大を続ける新型コロナの拡大防止に向けた製品提供を果たしました。また、新型コロナウイルスとインフルエンザを同時に検出する体外診断用医薬品「KBMラインチェックnCoV/Flu」の発売も開始しました。さらに、インフルエンザのA型とB型を区別するための「KBMラインチェックFlu AB」、小児の呼吸器感染症の原因ウイルスであるRSウイルスを判別する「KBMラインチェックRSV」も体外診断用医薬品として製造販売を続けています。これらの抗原検査キットは、方法が簡便であるにも関わらず、15分程度で結果が得られることから、迅速検査が望まれる医療施設や臨床検査センターなどで利用されています。近年では、新型コロナ抗原検査キットに加え、新型コロナとインフルエンザの同時抗原検査キットが薬局での販売も可能となり、国民の健康維持には欠くことの出来ないアイテムとして認知されています。

 新型の感染症が問題視される一方で、いまだ世界規模で流行している感染症も多くあります。エイズ、結核、マラリアは、「三大感染症」と呼ばれています。2000年の世界保健総会において、「ストップ結核パートナーシップ」 が発足しました。WHOが中心となり、2050年までに世界の結核を100万人に一人まで減らすことが目標として策定され、日本国内においても、「ストップ結核ジャパンアクションプラン」が策定されています。当社は、発育の遅い結核菌のための培養技術の改善を目指し、国内の研究機関と連携した製品開発を進めております。また、世界規模のマラリア対策を進めるため、WHO、UNICEF、UNDP、世界銀行が中心となって「ロールバックマラリア・パートナーシップ」 が設立され、死亡率及び有病率の半減が目標として掲げられました。当社は、マラリア診断に寄与すべく、血液を試料とする抗原検査キットの開発に着手しております。また、研究用試薬となりますが、近年東南アジアを中心に猛威を振るっているNDM型カルバペネマーゼ産生菌(薬剤耐性菌)の検査キット(KBMラインチェックNDM)の開発に成功し、開発途上国の抱える課題の解決に取り組んでおります。抗原検査キットは、簡便易且つ迅速な手法であることから、電源事情の悪い地域での活用が期待されております。

 微生物製品の開発や製品化においては、現在も共同研究やOEM受託等も積極的に行い、微生物検査を取り巻く市場や顧客ニーズの変化に対応した製品を提供し続けています。


(主な関係会社)当社及びエンバイオ株式会社

・細胞加工事業

 「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(以下、再生医療等安全性確保法)における再生医療の健全な普及に向け、特定細胞加工物製造受託および再生医療等法規対応サポートを行っています。


・特定細胞加工物製造受託

 免疫療法や幹細胞治療等の再生医療等を提供されている医療機関より依頼を受けて、厚生労働省より許可を得た細胞培養加工施設(施設番号:FA3190002、細胞培養加工施設の名称:コージンバイオ株式会社 埼玉加工センター)にて、当該医療機関が患者より採取した組織を預かり、特定細胞加工物の製造を受託しております。

 特定細胞加工物とは、再生医療等安全性確保法第2条で、「再生医療等に用いられる細胞加工物のうち再生医療等製品であるもの以外のもの」と定義されており、当社においては免疫細胞や幹細胞を中心に医療機関より受託しております。

 医療機関において採取された組織(血液や脂肪細胞等)を、当社の細胞培養加工施設にて受領し、そこから目的の細胞(免疫細胞や幹細胞)を取り出します。それら細胞をその管理項目に合った環境下において増殖させ、医療機関指定の細胞数まで増やしたうえで、医療機関からご指定の日に合うように納品いたします。

 特定細胞加工物の製造には、自社製の細胞培養用培地を使用しており、組織培養事業と連携することで、双方の技術開発及び、製品の品質向上に努めております。培地の製造メーカーである当社が、自社製の細胞培養用培地を用いて特定細胞加工物の製造を行い、さらに、自社製の細菌検査用培地を用いて品質管理試験を行うことで、費用を抑えることができ、柔軟な価格設定が可能となります。そこで、再生医療を身近な医療として認知度を高め、治療の医療負担を軽減させることを目的に、特定細胞加工物を医療機関へ提供しております。

 2022年7月からは、東京大学医学部附属病院との社会連携講座「臨床幹細胞生物学講座」を通じて、細胞治療のメカニズム究明やエビデンス取得のための臨床解析を行っております。

 また、主要な共同研究としましては、三重大学が開発された固形がんを標的としたMAGE-A4 CAR-T細胞の調整方法および品質管理システムの基盤技術の構築に関する研究を三重大学とティーセルヌーヴォー株式会社との三社間で取組んでおります。


・再生医療等法規対応サポート

 医療機関が患者に再生医療を提供する場合、再生医療等安全性確保法に基づき、製造委託の有無や細胞培養加工施設に関する情報を含め、提供しようとする再生医療のリスクに応じた再生医療等提供計画を作成し、認定再生医療等委員会の意見を付して、厚生労働大臣に提出することが義務付けられております。かかる法的手続きなどを経ないまま、再生医療等の提供あるいは特定細胞加工物の製造は医療機関においては法律違反となり、罰則が科されることとなります。当社では、再生医療を行う医療機関より委託を受けて、医療機関が患者に再生医療を提供する際に必要となる各種申請・届出業務に係る書類作成等のサポートおよび治療提供のために必要な行政手続きの支援業務を行っております。


【業績等】

決算期 種別 売上高 営業利益 経常利益 純利益

2025/03 連結会社予想 4,852 857 876 629

2024/03 連結会社予想 4,724 537 560 289

2023/03 連結実績 4,742 1,267 1,244 829

2022/03 連結実績 3,947 969 917 587


決算期 種別 EPS BPS 配当

2025/03 連結会社予想 126.89 1,061.61 14.00


上場時発行済株数 5,015,000株

公開株数 977,500株(公募850,000株、オーバーアロットメント127,500株)

調達資金使途 倉庫と休憩更衣室施設の建て替え、システム投資、粉末培地製造のための設備投資


PER:15.0

PBR:

配当利回り:0.7%

公募時吸い上げ資金:18.6億

公募時時価:95億

​   

【株主構成】 

中村孝人 代表取締役社長 2,209,500 53.05% 90日

TAKAコーポレーション(株) 役員らが議決権の過半数所有 416,500 10.00% 90日

オリエンタル酵母工業(株) 特別利害関係者など 270,000 6.48% 90日

コージンバイオ従業員持株会 特別利害関係者など 176,000 4.23% 90日

富士フイルム和光純薬(株) 取引先 140,000 3.36% 90日

渡辺恒美 特別利害関係者など 120,000 2.88% 90日

SMBC事業開発1号投組 投資業(ファンド) 100,000 2.40% 90日・1.5倍

埼玉りそな銀2号投組 投資業(ファンド) 100,000 2.40% 90日・1.5倍

コスモ・バイオ(株) 取引先 100,000 2.40% 90日

ニプロ(株) 特別利害関係者など 80,000 1.92% 90日


 本募集に関連して、貸株人である中村孝人並びに当社株主であるTAKAコーポレーション株式会社、オリエンタル酵母工業株式会社、コージンバイオ従業員持株会、富士フイルム和光純薬株式会社、渡辺恒美、コスモ・バイオ株式会社、ニプロ株式会社、家田化学薬品株式会社、中村雄一、中嶋久美子、鈴木邦雄、金青松、三瓶裕史、平田賢二、中村美千代、對比地久義、北川陽一、新井秀夫、原稔、湯澤文茂、日恵野太嗣、古地達彦、矢島晴美、田中英樹、水上亮比呂、廣澤一弘、森兼康博、尾関泰之、光彩乃、齋藤健太、野上真理、浜島健治、斉藤正好、松本直子、鹿倉久恵及び秋和誠は、主幹事会社に対し、元引受契約締結日から上場(売買開始)日(当日を含む)後90日目の日までの期間中、主幹事会社の事前の書面による同意なしには、当社普通株式の売却等(ただし、オーバーアロットメントによる売出しのために当社普通株式を貸し渡すこと等を除く。)を行わない旨合意しております。

 また、当社株主であるSMBC事業開発1号投資事業有限責任組合及び埼玉りそな銀2号投資事業組合は、主幹事会社に対し、元引受契約締結日から上場(売買開始)日(当日を含む)後90日目の日までの期間中、主幹事会社の事前の書面による同意なしには、当社普通株式の売却等(ただし、その売却価格が「第1 募集要項」における発行価格の1.5倍以上であって、主幹事会社を通して行う売却等を除く。)を行わない旨合意しております。

【代表者】

代表者名 中村 孝人(上場時74歳11カ月)/1949年生

本店所在地 埼玉県坂戸市千代田(東京オフィス:豊島区西池袋)

設立年 1981年

従業員数 133人 (2024/02/29現在)(平均37.8歳、年収558.2万円)、連結157人

事業内容 培地(微生物や細胞の培養に用いる生育環境のこと)の開発・製造・販売および細胞加工物の製造受託

URL https://kohjin-bio.jp/

株主数 39人 (目論見書より)

資本金 426,656,000円 (2024/03/22現在)


【幹事団】

主幹事証券 野村 - -

引受証券 みずほ - -

引受証券 SMBC日興 - -

引受証券 むさし - -

引受証券 SBI - -


【参考類似企業】 今期予想PER(4/1)

3386 コスモ・バイオ 19.1倍 (連結予想)

4241 アテクト 33.6倍 (連結見込)

4549 栄研化 24.1倍 (連結見込)

4556 カイノス 8.7倍 (単独見込)

4570 免疫生物 60.0倍 (連結見込)

4595 ミズホメディ 10.6倍 (単独予想)

4978 リプロセル 91.4倍 (連結見込)


【私見】

 業種としてはバイオ銘柄とは異なる培養事業で、黒字なので何か優位性はありそうですが、やや分かりにくい銘柄です。コロナ関係の特需もあって売上が横ばいで、成長性は現時点では大きくないのかもしれません。コスモバオあたりと比較してもPERは高くないので、上値余地はありそうです。吸収金額・時価総額も中規模で、大手との提携など何か材料があれば上がりそうですが、静かなスタートになるかもしれません。


想定価額:1840円

仮条件上限:1900円

初値予想:2500円

ブック申し込み度・・・やや強気

セカンダリー期待度・・・中立

総合評価:3.5

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