2024年10月11日金曜日

IPO分析(Hmcomm)

 【事業内容】

​(1)当社の特徴と優位性

 当社の特徴は、「音」に着目したAIに関する研究開発から製品提供まで、自社内で完結することを目的に、研究開発人材を採用し、またこの独自の研究開発型ビジネスプロセスを実践しているところにあると考えております(全体像は下図に記載)。研究開発型ビジネスプロセスの実践とは、「R&D初期フェーズ」から始まり「サービス提供運用保守フェーズ」までを順番に実行することを意味しております。当社は創業から現在まで着実にこのプロセスを実践し、「Voice Contact」を始めとする複数のプロダクトを市場に提供しております。

 「R&D初期フェーズ」においては、2014年8月の産総研技術移転ベンチャー認定取得や、2019年10月と2020年2月の国立研究開発法人の政府予算による複数件の研究開発プロジェクトの採択を通して、音声認識技術や異音検知技術の研究開発を実施してきました。本フェーズにおいては、今後訪れると予測される社会課題の解決につながる研究課題を当社で考え選定したうえで研究を進めてきております。その過程における活動が評価され「NEDOAIベンチャーコンテスト最優秀賞」、「JEITAベンチャー賞」、「大学発ベンチャー表彰 NEDO理事長賞」等を受賞しております。

 「R&D初期フェーズ」の研究開発成果を、個別企業の課題解決のために活用し、社会実装へと高める活動として「R&Dプロジェクトフェーズ」においては、資本業務提携を含む当社と密接な関係を有する先との実証実験を推進してまいりました。

 「自社製品開発プロダクト化フェーズ」では、個別企業の課題解決の成果から生み出された機能を、多くの企業で必要となる標準的な機能としてまとめ、当社のAIプロダクトとし開発、提供しております。例えば、当社の開発した「Voice Contact」は、リアルタイム音声認識機能に加え、管理者がオペレータの状況をリアルタイムでモニタリングすることができる管理者モニタリング機能や、通話をリアルタイムに音声認識し顧客情報帳票などへ自動で入力する自動帳票入力機能、コールセンターの稼働状況を示すダッシュボード機能等、コールセンター事業者にとって必要な標準的な機能として提供してきました。導入後は「サービス提供保守運用フェーズ」として運用保守を当社では実施しております。

 「サービス提供保守運用フェーズ」では、顧客からの製品の設定・使用・動作状況についての技術的質問に関する助言や、当社製品のマイナーバージョンアップデートの提供、製品のソフトウェア障害への対応等を実施しております。また、保守運用フェーズにおける当社製品の導入による業務改善の取組み支援も行っております。Voice Contactの導入顧客に対しては、運用指標レポートの提供と助言や、音声認識精度確認及びチューニング方法の助言等を行っております。KPIレポートについては、例えば待機時間等のいくつかの運用指標からオペレータの業務内容を見直す等の見かたを説明することで、業務効率化・生産性向上を行うためのアドバイスをしております。また、音声認識精度確認及びチューニングとしては、顧客企業にて認識精度を上げたい部分をヒアリングし、通話内容や誤認識の傾向から、効果的なチューニング機能の使用方法や、場合によりオペレータの話し方(滑舌や話す速さ)の変更といったプロダクト機能によらない方法等も含めたアドバイスすることにより、音声認識率の精度向上の支援をしております。当社ではこれらの対応を実施することにより顧客からのクレーム抑止や継続利用につながっているものと考えています。

 当社では、これらのビジネスプロセスを複数年にわたり実践することにより、社会課題解決につながる研究実践に加えて、個別企業と密接な提携関係を構築し課題解決を行えていると考えております。その結果、顧客企業や業界課題の理解度の向上、競合他社が簡単には入り込めない信頼関係の構築、課題解決に効果的な機能開発等を実施することができていると当社では認識しており、このビジネスプロセスにより当社ならではの競争優位性を構築できていると考えております。また、自社プロダクトに対しては、上記「自社製品開発プロダクト化フェーズ」で記載した通り、多くの企業で必要となる標準的な機能が実装されていくこととなり、課題解決につながる機能が拡大されていきます。そのため、当社プロダクトが課題解決につながる幅が大きくなっていくことにより、より多くの企業への導入につながるものと考えております。さらに、このビジネスプロセスがスパイラルアップされることで、今後より大きな社会課題の研究や個別企業の課題に取り組む機会を生み、この高度な課題を解決する機会を求めて優秀な人材が集まるという好循環も実現されていると当社では認識しております。

 なお、当社では産総研技術移転ベンチャーの称号により、産総研より許諾を受けた特許・プログラムの実施権の活用および、産総研主体の技術展示会への出展等の幅広い経営支援を受けておりましたが、2024年8月14日に称号の使用期限の満了と合わせて本支援活動も終了しております。なお、本支援活動に代わり、当社内にて技術開発人材を採用し「Voice Contact」等の技術開発を継続的に続けていること、展示会出展等も当社独自で実施してきており、本支援活動の終了による当社事業活動への影響はないものと考えております。


(3)当社が展開するサービス及びソリューションの内容

 当社では「AI×音」サイエンス事業の単一セグメントとしており、当該事業内でAIプロダクト事業(2023年度売上高比率:69.5%)とAIソリューション事業(2023年度売上高比率:30.5%)を展開しております。AIプロダクト事業は、コンタクトセンター向けAI音声認識プロダクト「Voice Contact」や、AI音声自動応答プロダクト「Terry」、AI議事録自動作成プロダクト「ZMEETING」、異音検知プロダクト「FAST-D」等の自社開発製品・サービスの提供をしております。AIソリューション事業は、AIプロダクト事業で培った技術や知見を基に、AI活用や、顧客のDX推進等の課題解決をトータルに支援するAI開発・コンサルティングを実施しております。


■AIプロダクト事業

 2015年より「音声認識を民主化し、キーボードレスの新しい社会を自ら創造する」の実現を目指し、音声認識・言語解析プロダクトを開発し、主にコールセンター向けに研究開発型ビジネスプロセスを推進してまいりました。この活動から、「Voice Contact」、「Terry」を開発し市場提供を行っております。また、当社ではコロナ禍におけるリモートワークのDX化推進と「Voice Contact」の社会実装の新たな試みを示すことができると判断し、「ZMEETING」をリリースしております。さらに当社では、次期AIプロダクトを検討する中で、資本提携先の企業との会話の中で「人間の五感に頼っていた機械・設備などの不具合の判断を定量的捉えたい」という企業課題があることを知り、2018年より「すべての機器に聴覚を与える(異音検知)」ことの実現が必要であると判断し、その実現を目指し、異音検知プロダクト「FAST-D」(Flexible Anomaly Sound Training and Detection)の研究・開発を始めて、2018年より市場提供を行っております。なお、当社の各AIプロダクトの市場提供に関しては、当社からの直接販売(2023年度売上高比率:81%)が中心ではありますが、販路拡大を目的に販売代理店(2023年度売上高比率:19%)と協力しての販売も実施しております。なお、販売代理店先としては大企業の子会社が多く当社ではカバーできない販売先の獲得が行えており、コールセンターの顧客では数百席規模の大型案件の獲得も実現しております。そのため、今後も当社でアプローチできない先に関しては販売代理店の活用を継続して行うこととしております。

 個別企業の課題解決の成果から生み出された機能を、多くの企業で必要となる標準的な機能としてまとめることにより当社のAIプロダクトとして提供を行うことにより、多くの顧客で求められる機能を提供することができていると認識しております。また、音に着目したAIプロダクトの開発を会社設立後から継続的に実施し、その知識および経験の長さを評価されていると判断しております。当社ではこれらの理由から当社のプロダクトを選定いただけているものと考えております。

 「Voice Contact」、「Terry」および「FAST-D」については、製品・サービス提供時に対価を受領しております。また、サービス導入以降は毎月一定額のライセンス費用を対価として受領しております。これらの対価は顧客の要求仕様、利用者数、追加開発の要否などを勘案し個別に決定しております。「ZMEETING」については、毎月の一定額のライセンス費用を対価として受領しております。なお、2023年度AIプロダクトの取引先数(社数)は50社、顧客取引平均単価は10.6百万円(ZMEETINGを除く)となっております。


 ■AIソリューション事業

 2020年に国がDX認定制度の運用を開始すると、企業においてもDX推進が重要視されはじめました。当社においても、顧客の要望が「集めたデジタルのデータをどう活用するか」という次の段階に進んできたと認識しております。また、2022年にChatGPT(※7)に代表される生成AIが登場すると、当社でもこの生成AIの効果的な活用を含めた課題解決が求められてきていると認識しております。

 そのため、当社ではAIプロダクト開発事業を通して培った以下4つのノウハウ(XI)を集結し、データの持つ力で新たな社会的価値を創造する「データサイエンス」により企業の課題解決やDX化の推進をトータルにサポートを行うことを目的として、2021年6月より、顧客の持つデータの利活用にかかわる経営課題を分析し、生成AIを活用した課題解決やDX化推進支援を目的にAIソリューション事業を開始しております。


  当社では、AIプロダクト開発で蓄積されたAI技術、蓄積されたデジタルのデータをビジネスの意思決定に活用するためのデータマイニングやテキストマイニング、データ分析等のBI(ビジネスインテリジェンス)技術、お客様の声を分析するVOC分析技術、サービスやセールスに活用するCI(カスタマーインテリジェンス)技術を保持していると認識しております。さらにこれらを効率的に活用するためのDI(データインテグレーション)のノウハウを提供する必要があると当社では考えAIソリューション事業を開始しております。

 事業内容としては顧客の課題に応じてAIの開発受託やコンサルティング業務を提供しており、契約形態としては準委任契約を中心に、一部業務については請負契約を適用しております。当社収益としては、役務提供による対価を受領しております。

 当事業の具体例としては、コールセンターを持つ教育分野の事業者との取組みとして、当社がもつ、AI開発の経験から得られた知見を活用し、コールセンターの全体の顧客体験と生産性の大幅な向上に向けた、「Voice Contact」に生成AIを組み合わせたシステム要件のコンサルティングから実際のシステム開発までを事業者とともに推進しております。なお、2023年度AIソリューションのプロジェクト数は49件、顧客取引平均単価は5.0百万円となっております。

 今後も当社ではAIプロダクト事業で培った技術力を武器としてAIソリューション事業を着実にすすめてまいります。また、本事業の顧客との課題解決活動を通して当社の信頼感を高めるとともに、技術力を感じていただくことで、同社のプロダクト製品の導入などにつながる活動を推進し事業拡大を図れるように努めてまいります。


【業績等】

決算期 種別 売上高 営業利益 経常利益 純利益

2024/12 単独中間実績 446 22 20 38

2024/12 単独会社予想 1,040 129 95 102

2023/12 単独実績 801 83 87 69

2022/12 単独実績 727 88 145 170


決算期 種別 EPS BPS 配当

2024/12 単独会社予想 33.77 - 0.00


上場時発行済株数 3,956,800株(別に潜在株式342,000株)

公開株数 1,047,400株(公募198,800株、売り出し712,000株、オーバーアロットメント136,600株)

調達資金使途 人材関連費用、研究開発費、広告宣伝費・販売促進費


PER:25.2

PBR:

配当利回り:

公募時吸い上げ資金:8.9億

公募時時価:34億

​  

【株主構成】 

三本幸司 代表取締役CEO 1,280,000 31.22%  △20,500

伊藤かおる 専務取締役COO 640,000 15.61%  △20,500

三菱UFJキャピタル5号投組 投資業(ファンド) 406,000 9.90% △209,000

DBJキャピタル投組 投資業(ファンド) 226,000 5.51%

ソニーネットワークコミュニケーションズ(株) 特別利害関係者など 204,000 4.98% △204,000

三本智美 代表取締役の配偶者 160,000 3.90%

ウィルグループHRTech投組 投資業(ファンド) 128,000 3.12%

橋本弥央 従業員または元従業員 120,000 2.93%

(株)FRACORA 元取引先 106,000 2.59% △106,000

(株)JR西日本イノベーションズ 特別利害関係者など 102,000 2.49% △102,000

山田匡和 従業員または元従業員 100,000 2.44%

芙蓉総合リース(株) 特別利害関係者など 100,000 2.44%

 本募集及び引受人の買取引受による売出しに関し、貸株人かつ売出人である三本幸司、売出人である伊藤かおる、当社株主である三本智美、橋本弥央、山田匡和、芙蓉総合リース株式会社、株式会社リコー、合同会社J&TC Frontier、株式会社安川電機、株式会社博報堂DYホールディングス及び緒方淳並びに当社新株予約権者である上野修、株式会社ベネッセホールディングス、木野英明、浅田浩及びその他21名は、SMBC日興証券株式会社(以下「主幹事会社」という。)に対して、本募集及び引受人の買取引受による売出しに係る元引受契約締結日に始まり、上場(売買開始)日から起算して180日目の2025年4月25日までの期間中は、主幹事会社の事前の書面による承諾を受けることなく、元引受契約締結日に自己の計算で保有する当社普通株式(潜在株式を含む。)及び当社普通株式を取得する権利を有する有価証券の発行、譲渡又は売却等を行わない旨を約束しております。

 売出人である三菱UFJキャピタル5号投資事業有限責任組合、当社株主であるDBJキャピタル投資事業有限責任組合、ウィルグループHRTech投資事業有限責任組合、KFG地域企業応援投資事業有限責任組合及びTIS株式会社は、主幹事会社に対して、本募集及び引受人の買取引受による売出しに係る元引受契約締結日に始まり、上場(売買開始)日から起算して90日目の2025年1月25日までの期間中は、主幹事会社の事前の書面による承諾を受けることなく、元引受契約締結日に自己の計算で保有する当社普通株式及び当社普通株式を取得する権利を有する有価証券の発行、譲渡又は売却等(ただし、その売却価格が募集における発行価格又は売出しにおける売出価格の1.5倍以上であって、主幹事会社を通して行う売却等は除く。)を行わない旨を約束しております。


【代表者】

代表者名 三本 幸司(上場時59歳0カ月)/1965年生

本店所在地 東京都港区芝大門

設立年 2012年

従業員数 37人 (2024/08/31現在)(平均39.3歳、年収773.5万円)

事業内容 音声認識処理、異音検知・自然言語解析処理を用いたプロダクトの提供など

URL https://hmcom.co.jp/

株主数 20人 (目論見書より)

資本金 90,000,000円 (2024/09/20現在)

代表者生年月日 1965年10月19日生まれ

代表者略歴

1986年04月 富士ソフトウェア株式会社(現 富士ソフト株式会社) 入社

2007年06月 同社 取締役就任

2012年05月 一般社団法人日本スマートフォンセキュリティ協会(JSSEC) 理事就任

2012年07月 H&Mコミュニケーション株式会社(現 Hmcomm株式会社) 設立 代表取締役CEO就任(現任)


【幹事団】

主幹事証券 SMBC日興 - -


【参考類似企業】今期予想PER(9/2)

260A オルツ - (連結予想)

3773 AMI 14.6倍 (連結予想)

3993 PKSHA 52.3倍 (連結予想)

4056 ニューラル - (連結予想)

4259 エクサウィザー 268.8倍 (連結予想)

4382 HEROZ 539.2倍 (連結予想)

4388 エーアイ - (連結予想)

4418 JDSC 78.4倍 (連結予想)

4488 AIinside 64.3倍 (単独予想)

5591 AVILEN 48.2倍 (単独予想)


【私見】

 音声認識処理ということで業種妙味はあるのですが、ややインパクトに欠ける印象です。業績は伸びており、PERからの割高感はないのですが、成長力は強くはなく物足りなさはあります。ソニーやJRなども売出し、需給としては締まりましたが、売出し色強く成長性には疑問が付きます。幹事が日興のみというのも気になり、初値は少し上がっても大きくは上がらないと予想します。


想定価額:850円

仮条件上限:850円

初値予想:1050円

ブック申し込み度・・・やや強気

セカンダリー期待度・・・中立

総合評価:3.5

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