2020年7月17日金曜日

IPO分析(モダリス)

【事業内容】
 プラットフォーム技術である『切らないCRISPR技術(CRISPR-GNDM技術)』を用いた創薬によって、その多くが希少疾患に属する遺伝子疾患に対して治療薬を次々と生み出し、企業理念である「Every life deserves attention (すべての命に、光を)」のとおりに、病気のために希望を失わなくてすむ社会の実現に貢献してまいります。
  当社グループのターゲットとしている遺伝子疾患とは、10,000(1)と言われるヒトの疾患の中で、約7,000(2)が患者数の少ない希少疾患(疾患のロングテール)と言われ、ほとんどはこの希少疾患に属します。これらの患者数は、一つ一つの疾患は細分化されていても、合わせると世界中で4億人(3)もいるとされています。希少疾患領域のための治療薬開発は、開発コストと開発期間が膨大にかかる従来型の創薬では効率が悪いためこれまで敬遠されており、95%(3) (5)の希少疾患にはまだ治療薬がありません。当社グループの技術力でこの問題解決に挑みます。
 
(1) 当社の事業領域
① CRISPR-GNDM技術
CRISPR-GNDM技術とは、ゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9のコア分子であるCas9というCRISPR酵素を基に、当社グループが開発した独自の創薬プラットフォームシステムです。
この技術は、Cas9タンパク質※7を詳細に解析して有効な改変を行い、また独自に開発した周辺技術と組み合わせ、目的遺伝子の発現(細胞内での出現量)をオン・オフすることを可能にしたものであり、いわば「遺伝子スイッチ」として機能するユニークかつパワフルな創薬技術(モダリティ)です。より具体的には、CRISPR酵素の切断活性を不活化し、これに遺伝子の転写を上げる、または下げるスイッチング分子0を連結することにより、ガイド核酸で誘導された特定の箇所の近傍にある遺伝子を選択的にオン、またはオフにすることが可能になります。つまり、通常のゲノム編集とは異なり、遺伝子の切断を行わず効果を発現させる技術です。このCRISPR-GNDM技術によって、6,000を数えると言われる遺伝子疾患の原因遺伝子に対してエピジェネティクスを直接制御して治療法を生み出すことが可能になります。

② CRISPR-GNDM技術の特徴
a.  CRISPR-GNDM技術による成功確率の優位性
 医薬品開発の主要な4つのハードルとして、薬物動態※12、メカニズム(Proof-of-Mechanism(PoM))、概念実証(Proof-of-Principal(PoP))、コンセプト実証(Proof-of-Concept(PoC))があります。
 一般的な創薬技術(モダリティ)は、低分子医薬、抗体医薬、核酸医薬等があり、旧来の創薬である低分子医薬は、多くの候補の低分子化合物から目的の機能の評価試験法を用いて絞り込みをして開発候補物質を決め、開発のステージを進めていきますが、候補選択の評価試験法には限りがあり、着目している機能以外に毒性など不明なことが多いままに臨床試験を行うことになりますので、開発の各ステージで予期せぬ毒性などが露見し、次々とドロップアウトし、極めて少数のプロダクトが上市に辿り着くのが常でした。また近年は、病態や疾患の原因となるターゲット分子の同定が進んだことにもより、タンパク質や遺伝子のような標的に対して合理的にデザインされた分子によって治療を行おうとする、抗体医薬、核酸医薬等のように分子標的薬アプローチが取られるようになりました。しかしながら、このようなアプローチをしても標的分子の種差によって候補物質の作用の仕方が動物とヒトの間に差がある場合があり、実際に実験してみるまでは薬効や毒性の程度の差はわからないという状況に変わりはありません。つまり、一般的な創薬技術においては、常にドロップアウトのリスクと隣り合わせであり、長期にわたり多額の研究開発投資を投入しても成功の予測が困難な状態が開発の最終段階までつきまといます。したがって、一般的な創薬技術であれば、第Ⅱ相臨床試験の終了まではその薬が効果を見せるかどうか、あるいは毒性があるかどうかは試験を実施するまで予見することが困難です。
 一方で、当社のCRISPR-GNDM技術をはじめとして単因子遺伝子疾患を対象とする遺伝子治療薬開発においては、PoPとPoCの蓋然性がより高いと考えられます。多くの遺伝子治療でターゲットとする単因子遺伝子疾患においては原因が単一の遺伝子に起因しているため、PoP及びヒトPoCは予見可能性が高いと考えております。そのため、動物でターゲット遺伝子の正常化を行った結果が良好であれば、ヒトでの治療効果を早期に予見することができ、開発の成功確率が高まり、一般的なモダリティよりも早い段階でパートナー企業とのライセンス契約の締結に繋げることが可能と考えております。
 
b.  CRISPR-GNDM技術の移転可能性
 一般的な創薬技術の場合は、ある一つの薬が臨床試験に成功して上市されたとしても、その開発ノウハウを別の薬に移転できる部分はあまり大きくありません。これは薬毎に性質が異なり、薬毎の利点も問題点も異なるからです。一般的な治療薬の開発は、数千〜数百万の化合物のライブラリーの中から薬効や薬物動態、毒性などを指標に適切な化合物の絞り込みを行い、さらに最適化を続けて開発に資する化合物へと何段階ものスクリーニングをしなければなりません。ターゲットの疾患毎にこうした作業はゼロから行うことになり、したがってある治療薬の開発経験やノウハウは他の治療薬へそのまま転用することが難しいと考えられます。
一方で、一般的な遺伝子治療薬開発においては必要な細胞への導入方法や製造方法の多くは、ターゲットの遺伝子が変わっても共通の部分が非常に多いと考えられているため、成功のノウハウと失敗の学びを他のターゲット遺伝子に対する遺伝子治療薬に転用することが一般的な創薬技術に比べて容易となると考えております。
CRISPR-GNDM技術においては、特に可変部分がガイド核酸という非常に小さい部品に限られており、またその他の構成成分である切断不活型CRISPR酵素とスイッチング分子(下記図中③)は共通のパーツとして既にあるため、標的疾患毎に対応したわずか約20塩基ほどのガイド核酸のみを個別にデザインをするだけで、効率よく遺伝子治療薬を開発することができると考えております。この技術的な特徴により、多くの遺伝子疾患にCRISPR-GNDM技術による創薬の方法論を拡張して遺伝子治療薬を生み出すことができると考えております。
 
c.  CRISPR-GNDM技術の収益の将来性
 米国における遺伝子治療薬を開発するバイオテック企業の時価総額の累計は、『Human Gene Therapy Clinical Development Vol. 29, No. 4』(2018年12月、Mary Ann Liebert, Inc.発行)掲載の「Traditional Approaches for Company Valuation are Flawed for Valuing in vivo gene therapy companies」によると、2018年10月末時点において2,500億米ドル(約28兆円)に達し、特に2017年以降に急速な上昇を見せています。
その背景には、上記で述べた遺伝子治療薬開発においての予見可能であることによる成功確率の高さ及び他の遺伝子治療薬へノウハウを移転することの容易さという、2つの特徴によると考えられています。
 その結果、遺伝子治療薬開発において重層的なキャッシュ・フローを生み出すことが可能であると考えられており、遺伝子治療薬開発バイオテック企業の高い将来性の評価に繋がっていると考えております。特に、CRISPR-GNDM技術においては、一般的な遺伝子治療薬よりも他の疾患への技術移転が容易であるため、当社の収益性も高くなると考えております。
 
d.  CRISPR-GNDM技術の安全性
 遺伝子治療の1つとしてゲノム編集治療があります。ゲノム編集は、染色体上の特定の場所にある遺伝子配列を部位特異的なヌクレアーゼ(切断酵素)を利用して、思い通りに改変する技術です。代表的な技術に第一世代のZFN(ジンクフィンガーヌクレアーゼ)、第二世代のTALEN(タレン)といった旧来からの技術に対して、第三世代となるCRISPRが新たに登場しました。CRISPRは旧来からの技術に対して、より簡便かつ高速にターゲットの遺伝子を改変することができると考えられています。これらの技術を用いたゲノム編集治療は、ヌクレアーゼを細胞内にウィルスベクターなどを用いて送り込み、疾患の原因となった遺伝子コードやエピジェネティクスのエラーを書き換えて治療を試みるものです。
ターゲット遺伝子のカット&ペーストを行う通常のゲノム編集は、遺伝子コードのエラーによって生じる疾患に対して半/永続的に効果をもたらす有効な治療法ですが、遺伝子の二重鎖切断※26を伴うと、遺伝子を切断することでガン化リスクが高まることが報告されており、またそもそも狙った遺伝子ではなく他の遺伝子を切断するリスク等を伴う治療法であります。
一方で、遺伝子のエピジェネティクスの修復にフォーカスしたCRISPR-GNDM技術は、切断を含む遺伝子の配列の改変を行うことなく「遺伝子スイッチ」のオン・オフのみを制御するものであります。つまり、ターゲット遺伝子において異常な機能をもたらしている遺伝子の発現レベルを遺伝子によってはほぼゼロまで落とすことができ、あるいは発現量が足りないことによって疾患が生じている場合には発現量を高めて治療することができるという、遺伝子の切断を行う一般的なゲノム編集と比較して、遺伝子の切断を行わないCRISPR-GNDM技術はよりクリーンな方法で治療を行うことができると考えられています。

【業績等】
業績動向(百万円)事業収益 営業利益 経常利益 純利益
(連結実績)2018.12 65 -214 -213 -217
(連結実績)2019.12 644 157 146 140
(連結予想)2020.12 1,100 350 300 250
(連結1Q実績)2020.12 13 -116 -116 -118
1株当たりの数値(円)EPS BPS 配当
(連結予想)2020.12 9.63  -  0
調達資金使途 自社パイプラインの研究開発、米国関連施設の増床など
上場時発行済み株数 27,200,000株 (別に潜在株式2,903,200株)
公開株数 3,105,000株(公募2,100,000株、売り出し600,000株、オーバーアロットメント405,000株)

PER:124
PBR:
配当利回り:
公募時吸い上げ資金:25.4億
公募時時価:223億
    
【株主構成】
(株)ライフサイエンスイノベーションマネジメント 役員らが議決権の過半数を所有する会社 5,000,000 17.86 180日
濡木理 社外取締役 4,500,000 16.07 180日
富士フィルム(株) 特別利害関係者など 2,350,000 8.39 90日・1.5
ファストトラックイニシアティブ2号投組 ベンチャーキャピタル(ファンド)2,350,000 8.39 90日・1.5
SBIベンチャー投資促進税制投組 ベンチャーキャピタル(ファンド)1,050,000 3.75 90日・1.5
協創プラットフォーム開発1号投組 ベンチャーキャピタル(ファンド)1,000,000 3.57 90日・1.5
片山晃 特別利害関係者など 800,000 2.86
SMBCベンチャーキャピタル3号投組 ベンチャーキャピタル(ファンド) 750,000 2.68 90日・1.5
SoseiRMF1投組 ベンチャーキャピタル(ファンド)750,000 2.68 90日・1.5
みずほ成長支援第2号投組ベンチャーキャピタル(ファンド)725,000 2.59 90日・1.5
【代表者】
代表者生年月日 1969年08月09日生まれ
代表者略歴 
1994年04月 麒麟麦酒(株) (現 協和キリン(株)) 入社
2002年01月 Booz Allen Hamilton Inc. (現 PwC Strategy &)
2003年11月 ワイズセラピューティックス(株) 経営企画部長兼事業企画部長
2004年04月 (株)シンク・アンド・ゴー 代表パートナー
2006年03月 (株)レグイミューン 代表取締役CEO
2014年05月 (株)ライフサイエンスイノベーションマネジメント 取締役(現任)
2015年05月 (株)オルファビオ 代表取締役CEO  (同)ブラッド・アレイ 有限責任社員
2016年01月 当社 代表取締役社長(現任)  4月 EdiGENE Inc. (現 Modalis Therapeutics Inc.) CEO(現任)
【幹事団】
主幹事証券 みずほ 2,025,000 75.00
引受証券 SBI 297,000 11.00
引受証券 SMBC日興 297,000 11.00
引受証券 いちよし 40,500 1.50
引受証券 エース 40,500 1.50

【参考類似企業】時価総額(海外株は1米ドル107円換算)
    米インテセラピ 1,494億円
0001  瑞クリスパー 6,547億円
0002  米エディタス 2,185億円
0003  仏セレクティス 769億円
0004  米ブルーバード 3,810億円
0005  米サンガモ 1,611億円
4563  アンジェス 2,000億円
4596  窪田製薬 126億円
【私見】
 バイオですが、技術力・話題性・黒字化と他のバイオとは違い久々に評価できる銘柄の上場です。富士フィルムから出資を受け、また投資家の片山晃の出資もあり注目度は高いです。バイオなので評価は難しいのですが、時価総額200憶のスタートでアンジェスの2000憶は別として、期待で1000憶弱までの可能性もありそうです。

日経2020.4.1より
 東京大学発スタートアップのモダリス(東京・中央)は1日、ゲノム編集技術を持つ米エディタス・メディシン(マサチューセッツ州)とライセンス契約を締結したと発表した。
エディタスのゲノム編集技術「クリスパー・キャス9」を使って医薬品を開発することが可能となる。医薬品開発を目的に、エディタス・メディシンとライセンス契約を結んだ企業はモダリスが日本初となる。
モダリスは、遺伝子を切らずに遺伝情報を編集する独自技術を持つ。ゲノム編集技術を活用することで、遺伝性疾患の治療薬の開発を目指している。
森田晴彦社長は「我々が目指すのはクリスパー・キャス9を使った遺伝子治療により、そのほとんどが希少疾患に属する遺伝子疾患に対し、有効な治療法を作ること」という。
「ゲノム編集」では、生物の設計図といえる遺伝子情報を操作する。
スイスのノバルティス、米ファイザー、独バイエル、米リジェネロンなどが難病や希少疾患を対象としたゲノム編集による治療研究を進める一方、日本では医療現場での活用が進んでいない。
12年ほど前に登場した「クリスパー・キャス9」は、それまでのゲノム編集技術と比べて操作しやすいとされている。
想定価額:820円
仮条件上限:1200円
初値予想:3600円
ブック申し込み度・・・強気
セカンダリー期待度・・・中立~やや強気
総合評価4

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