2022年11月10日木曜日

IPO分析(ティムス)

 【事業内容】

​(1)技術の特徴

 アカデミア等の研究機関等の研究開発成果を基盤とした医薬品候補物質の研究開発を行い、グローバルの医薬品市場に展開することを主要な事業内容とした、創薬型バイオベンチャー企業です。

 現在のパイプラインは、ヒトが体内に有する酵素の一つである可溶性エポキシドハイドロラーゼ(sEH)*を標的とした医薬品候補物質により構成されています。sEHを阻害することで「抗炎症作用」が得られることが分かっており、当社では様々な炎症性疾患を対象としてsEH阻害剤の開発を進めています。

 当社のリードパイプラインであるTMS-007は、sEH阻害による「抗炎症作用」に加えて、プラスミノーゲン*に作用することによる「血栓溶解作用」も有しており、急性期脳梗塞を対象とした臨床開発が進められています。また、後続パイプラインのTMS-008は、様々な炎症性疾患を適応*として開発が進められており、現在、非臨床試験を実施中です。


 ① 可溶性エポキシドハイドロラーゼ(sEH)について

 sEHは二つの作用を有すると考えられています。一つは、可溶性エポキシドハイドロラーゼという名称の由来となった、エポキシド構造*の化合物を加水分解*する作用です(EH活性)。具体的には、sEHは、生理活性脂質*エポキシエイコサトリエン酸(EETs:Epoxyeicosatrienoic Acid)*を、加水分解作用によりジヒドロキシエイコサトリエン酸(DHETs:Dihydroxyeicosatrienoic Acid)*に変換する役割を担っています。EETsは炎症を抑制する効果があることが知られています。このため、sEHを阻害することで、EETsからDHETsへの変換を防ぎ、EETsが減少せずに体内に留まります。これがsEH阻害剤の抗炎症作用のメカニズムの一つであると考えられています。


sEHのもう一つの作用は、脱リン酸化作用*です(Phos活性)。sEHの脱リン酸化作用の詳細についてはまだほとんど解明されていませんが、当社は東京農工大学等との共同研究を通じて解明に取り組んでおり、sEH阻害による抗炎症作用の中核を担う作用であることが分かってきています。


② SMTP化合物群について

当社のパイプラインTMS-007、TMS-008及びTMS-009は、SMTPと名付けられた化合物のファミリーに属しています。SMTPは、黒カビの一種であるスタキボトリス・ミクロスポラが産生する化合物と、約60種類のその誘導体からなる化合物群です。SMTPの主な作用機序は、sEHの阻害作用に基づく抗炎症作用ですが、一部の化合物はプラスミノーゲンに作用することで血栓を溶解する効果も有しています。


(2)開発パイプライン

当社における現在のパイプラインは、臨床開発段階(前期第Ⅱ相臨床試験終了)にあるTMS-007と、前臨床段階にあるTMS-008の2化合物からなっています。また、TMS-008のバックアップ化合物としてTMS-009があります。このうち、TMS-008については、急性腎障害及びがん悪液質を対象として複数の臨床試験をそれぞれ実施する計画となっており、適応の種類としては、急性期脳梗塞、急性腎障害及びがん悪液質を適応症とする3本のパイプラインがあります。TMS-007、TMS-008及びTMS-009は全てSMTP化合物ファミリーに属しますが、今後はsEHをターゲットとしうるSMTP以外の化合物の研究開発も進めていきます。

 

① TMS-07(急性期脳梗塞)

 脳梗塞は、世界で年間約763万人が発症し約329万人の死亡原因となっている、非常に重大な疾患です。急性期脳梗塞は、血栓により脳血管が閉塞して脳への血液供給が滞ることで生じます。片麻痺、記憶障害、言語障害、読解力・理解力の低下、その他の合併症を引き起こし、脳の永久的な損傷に繋がる可能性があります。また、介護が必要になる原因としても上位であり、医療経済に対し極めて大きな影響をもたらしています。それにも関わらず、先進国で共通に承認されている医薬品は一品目のみであり、しかも脳梗塞患者全体の10%未満にしか投与されておらず、非常に大きなアンメット・メディカル・ニーズ*が存在しています。TMS-007は、血栓溶解作用と抗炎症作用を併せ持つ全く新しい作用機序により急性期脳梗塞治療に革命的な変化をもたらすことが期待されると当社は考えています。

当社は、2017年11月から2021年8月にかけてTMS-007の前期第Ⅱ相臨床試験を行いました。また、2018年6月にはバイオジェン社とオプション契約を締結し、2021年5月にバイオジェン社がオプション権を行使したことにより、今後のTMS-007の開発及び各国での承認取得はバイオジェン社が行うことになります。


② TMS-008

 TMS-007に続くパイプラインのTMS-008は、血栓溶解作用がほとんどなく、sEH阻害による抗炎症作用を有するSMTP化合物です。現在、前臨床試験と治験薬製造に向けての準備を進めており、2024年2月期の臨床試験入りを目指しています。

 TMS-008は、その抗炎症作用により、大きなアンメット・メディカル・ニーズを有する急性期の炎症性疾患を標的として開発が進められており、当社では、急性腎障害及びがん悪液質を適応として開発を行う予定です。また、他の疾患への適応についても研究を進めており、得られた結果によっては、TMS-008の適応疾患としてパイプラインに掲げる適応を追加する可能性があります。

 バイオジェン社がオプション権を行使したことにより、TMS-008を含む全てのSMTP化合物に関する製造開発権はバイオジェン社に移転されましたが、TMS-008を含む複数の化合物を一定の疾患を適応として開発する権利はバイオジェン社から無償での使用許諾を受けています。また、当社がTMS-008の適応疾患としてパイプラインに掲げている適応は、全てこの無償使用許諾の範囲内となっております。


③ TMS-009

 TMS-008のバックアップ化合物として、TMS-009の開発を準備しています。TMS-009は、TMS-008と類似した性質を持っていますが、動物試験によってはTMS-008よりも高い薬理効果を示しており、純粋にバックアップ化合物としてだけではなく、適応疾患によってはTMS-009をメインに開発を行うことも視野に入れています。

 バイオジェン社がオプション権を行使したことにより、TMS-009を含む全てのSMTP化合物に関する製造開発権はバイオジェン社に移転されましたが、TMS-009を含む複数の化合物を一定の疾患を適応として開発する権利はバイオジェン社から無償での使用許諾を受けています。


④ 新規パイプライン

 主として東京農工大学等との共同研究を通じて、sEHを標的物質とするSMTP以外の医薬品候補物質についても、研究開発に着手しています。また、SMTP化合物の開発を通じて得られた知見を活用して、中長期的にはsEH以外の標的に作用する天然由来化合物に関する研究活動や、sEHのターゲットである脂質メディエーターに関する研究活動も行っていくことを計画しています。

 アカデミアにより発見された化合物を独力で臨床開発実施まで持ち上げ、ヒトPOC*の取得を達成した日本のバイオベンチャー企業は非常に少ないと考えられます。また、グローバルに事業展開する日本企業以外の製薬会社との提携を実現している日本のバイオベンチャー企業もごく少数です。当社は、この実績と経験を踏まえて、日本を中心としたアカデミアの創薬シーズを導入・開発しグローバルの医薬品市場につなげていくことが当社が果たすべき重要な役割であると考えており、また、当社として多様なポートフォリオを構築する大きなチャンスであると考えております。

 当社では、既にアカデミア等の研究機関等の研究成果を導入しパイプラインに加えることも検討しており、既に複数の研究成果に対する評価を実施中です。


(3)事業モデル

 基本的な事業モデルは、医薬品開発における研究段階から早期臨床段階までを当社が行い、後期臨床段階からは国内外の製薬会社と提携して開発製造販売権を付与し、提携先製薬会社から開発一時金(マイルストーン)及びロイヤリティ収入等を得るものです。また、疾患分野によっては、当社が後期臨床段階及び承認取得、さらには販売まで手掛けることも視野に入れています。

 東京農工大学等から導入した化合物の一つであるTMS-007につき、急性期脳梗塞を適応として前臨床試験・第Ⅰ相臨床試験・前期第Ⅱ相臨床試験を完了しました。また、前期第Ⅱ相臨床試験実施中の2018年6月に米国の大手製薬会社であるバイオジェン社とオプション契約を締結し、2021年5月にはバイオジェン社がオプション権を行使しました。当該提携により当社は、(1)契約締結時(2018年6月)に400万ドル、及び(2)オプション権行使時(2021年5月)に1,800万ドルを受領済です。また、(3)今後の開発及び商業化の状況に応じて最大3億3,500万ドルのマイルストーン、及び(4)製品発売後の売上に応じてロイヤリティを受領(1桁%台後半~10%台前半の段階的料率)する可能性があります。

 なお、当社がSMTP化合物に関してバイオジェン社と締結しているオプション契約は、使用許諾契約(ライセンス契約)とは異なり特許権(出願中のものを含む)及びデータの譲渡の契約形態となっていますが、対価を一時金及びロイヤリティとする点で、経済条件の面では使用許諾契約と類似した契約形態となっています。


(4)成長戦略

 日本の大学で創出されたシーズについて、研究段階・前臨床段階・臨床試験段階と開発を進め、ヒトPOC取得まで至ることができました。またその過程でグローバルに展開する海外製薬会社との提携を実現した実績を有しています。当社の経営陣は、これらの実績・経験を有するメンバーがコアとなっています。

 このような実績・経験を活かして、①SMTP化合物、特に急性期脳梗塞患者を対象とした治験で良好な成績を収めたTMS-007を基盤として上場企業としての基礎固めを行い、②日本を中心としたアカデミアの創薬シーズを積極的に導入してパイプラインを拡充していくことで今後の成長を実現していくこと、を成長戦略として描いています。


【業績等】

決算期 種別 営業収益 営業利益 経常利益 純利益

2023/02 単独中間実績 0 -268 -469 -468

2023/02 単独会社予想 0 -896 -1,230 -1,230

2022/02 単独実績 1,946 1,135 1,079 1,076

2021/02 単独実績 0 -721 -720 -722


決算期 種別 EPS BPS 配当

2023/02 単独会社予想 -36.16 - -


上場時発行済株数 36,534,880株(別に潜在株式2,273,680株)

公開株数 4,290,900株(公募3,432,800株、売り出し298,500株、オーバーアロットメント559,600株)

調達資金使途 創薬研究およびパイプラインの開発にかかる研究開発直接費、研究開発人件費、諸経費などの研究開発経費


国内募集、引受人の買取引受による国内売出し及びオーバーアロットメントによる売出しと同時に、米国、欧州及びアジアを中心とする海外市場(但し、米国においては1933年米国証券法に基づくルール144Aに従った適格機関投資家に対する販売のみとする。)における募集及び売出し(海外募集及び海外売出し)が、SMBC Nikko Capital Markets Limited及びJefferies GmbHを共同主幹事会社兼ジョイント・ブックランナーとする海外引受会社の総額個別買取引受けにより行われる予定であります。

 本件募集による新株式発行の募集株式総数は3,432,800株の予定であり、国内募集株式数1,499,100株及び海外募集株式数1,933,700株を目処に募集を行う予定ですが、その最終的な株式数の内訳は、需要状況等を勘案した上で発行価格等決定日に決定されます。また、本件売出しの売出株式総数は298,500株の予定であり、国内売出株式数86,800株及び海外売出株式数211,700株を目処に売出しを行う予定ですが、その最終的な株式数の内訳は、需要状況等を勘案した上で売出価格等決定日に決定されます。


PER:

PBR:

配当利回り:

公募時吸い上げ資金:28.7億

公募時時価:244億

​   


【株主構成】 180日

大和日台バイオベンチャー投組 ベンチャーキャピタル(ファンド) 4,323,320 12.22%

三菱UFJキャピタル4号投組 ベンチャーキャピタル(ファンド) 3,870,320 10.94%

THVP-1号投組 ベンチャーキャピタル(ファンド) 2,907,360 8.22%

ニッセイ・キャピタル9号投組 ベンチャーキャピタル(ファンド) 2,711,080 7.66%

ニッセイ・キャピタル7号投組 ベンチャーキャピタル(ファンド) 2,350,000 6.64%

Xseed High Growth投組 ベンチャーキャピタル(ファンド) 2,340,000 6.61%

MSIVC2016V投組 ベンチャーキャピタル(ファンド) 1,579,200 4.46%

蓮見恵司 取締役会長 1,548,000 4.38%

(株)新日本科学 特別利害関係者など 1,433,320 4.05%

ニッセイ・キャピタル10号投組 ベンチャーキャピタル(ファンド) 1,333,360 3.77%

OCP1号投組 ベンチャーキャピタル(ファンド) 968,000 2.74%


【代表者】

代表者名 若林 拓朗(上場時55歳8カ月)/1967年生

本店所在地 東京都府中市府中町

設立年 2005年

従業員数 13人 (2022/09/30現在)(平均42.8歳、年収703.5万円)

事業内容 医薬品、医薬部外品、医薬品原材料、医療用機器や医療用消耗品の研究・開発

URL https://www.tms-japan.co.jp/

株主数 55人 (目論見書より)

資本金 100,000,000円 (2022/10/18現在)

代表者生年月日 1967年02月26日生まれ

代表者略歴

1989年04月 株式会社リクルート入社

2001年04月 先端科学技術エンタープライズ株式会社  代表取締役 (現任)

2005年11月 Xseed Partners 有限責任事業組合 組合員

2011年05月 当社代表取締役

2015年09月 株式会社バイオメッドコア 代表取締役

2018年05月 当社代表取締役社長(現任)


【幹事団】

主幹事証券 SMBC日興 - -

引受証券 野村 - -

引受証券 みずほ - -

引受証券 大和 - -

引受証券 三菱UFJモルガン・スタンレー - -

引受証券 岡三 - -

引受証券 SBI - -

引受証券 香川 - -

引受証券 楽天 - -


【参考類似企業】 時価総額

00000 米アサーシス 51億円

00001 米ディアメディカ 47億円

06535 台湾・順天医薬 262億円

06712 台湾・長聖生技 599億円

4592 サンバイオ 491億円

4593 ヘリオス 171億円

4599 ステムリム 486億円


【私見】

 東京農工大初のバイオベンチャーで、内容的には分かりにくいのですが、バイオジェン社とのマイルストーンが最大500憶と夢のあるIPO銘柄ではあります。前期は20憶弱でしたが、今期は売上ゼロ予想と現実は厳しく、博打的な要素は非常に高いです。VCは完全ロックで、吸収金額はバイオにしては小さく、3桁銘柄ということも魅力です。時価総額も類似業種に比べると小さめで、マネーゲーム的な買いもある銘柄かもしれません。


想定価額:670円

仮条件上限:670円

初値予想:800円

ブック申し込み度・・・中立

セカンダリー期待度・・・中立

総合評価:3

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