2022年6月11日土曜日

IPO分析(マイクロ波化学)

 【事業内容】

​(1) マイクロ波プロセスの原理、優位性および歴史

 伝統的なモノづくりの方法においては、エネルギー伝達手段として、伝熱プロセスが用いられています。ガス、熱媒、蒸気といった熱エネルギーを、空間のある場所から対象物質に移動させることによって、反応を起こそうとするプロセスです。このプロセスにおいては、エネルギー伝達が外部から間接的なものとなり全体を加熱するためにエネルギーロスが生じることから、対象物質の反応に必要である以上のエネルギーが必要となります。また、大規模生産をしようとすると、対象物質へのエネルギー伝達が不均一になってしまうため、収率低下、品質劣化という問題が生じます。

 一方、マイクロ波プロセスにおいては、エネルギー伝達の方法が全く異なります。マイクロ波とは,波長約1 mm~1 m(300 MHz~300 GHz)の電界と磁界が直交した電磁波です。

 マイクロ波は、特定の物質に内部から直接かつ選択的にエネルギーを伝達できるという特徴を有しており、これにより媒体を介してのエネルギー伝達が不要となるため、必要最小限のエネルギーしか要しません。また、目的とする物質のみが共鳴する周波数のマイクロ波を照射することで、均一にエネルギー伝達することができるため、ムダ・ムラを排除し高収率・高品質を達成します。

 このような特徴を有するマイクロ波の化学への適用は、1980年代の電子レンジの改造ラボ装置からスタートしました。そして、現在に至るまで、有機合成を始めとした各種の化学反応において、反応時間短縮、高収率、素材の性能向上などの圧倒的な効果がラボスケールで報告されてきました。しかしながら、2000年に入っても化学プロセスとして大型産業化された例は無く、「化学反応においては、マイクロ波を制御することが困難であり、産業利用することは不可能である」という見解が化学業界の常識となっていました。


(2) 技術プラットフォームの構築

 2007年の創業以来、上述のような常識に挑み、ついにマイクロ波プロセスを用いて年産3,000トン規模での商業生産を実現しました。当社は、その過程で「デザイン力の獲得と強化」および「要素技術群の開発と蓄積」の2点に着目し、技術プラットフォームを築いてきました。


①デザイン力の獲得と強化

■ 反応系のデザイン

 各々の物質において、マイクロ波を吸収できる能力(マイクロ波吸収能)は異なり、周波数依存性と温度依存性を示します。最適な反応を得るためには、ターゲット物質に合わせてマイクロ波の周波数を選定する、すなわち「反応系のデザイン」が重要となります。しかし、様々な状態におけるマイクロ波吸収能を測定できる手法は確立されておらず、加えて、膨大なデータおよびノウハウの蓄積が必要となるため、マイクロ波が汎用的なモノづくりプロセスとして採用されるための大きな障壁となっていました。当社はマイクロ波吸収能の測定方法を独自開発・確立し、データベース化を進め、それに基づいた反応系デザインのパターン認識とノウハウ蓄積を進めることで体系化しました。


■ 反応器のデザイン

 マイクロ波プロセスにおいては、反応器という閉鎖空間の中でマイクロ波を照射しますが、研究段階では小さな反応器でマイクロ波の優位性検証を行います。一方で、マイクロ波を産業利用するためには、研究段階の小さな反応器を数千から1万倍程度の大きさにスケールアップする必要がありますが、マイクロ波プロセスの反応器デザインにおいては、従来の熱伝導を利用したプロセスにおけるそれとは全く異なった技術が必要となります。

 マイクロ波反応器デザインでは、波の特性(吸収、透過・反射)を加味し、マイクロ波の分布(電磁界分布)を制御することが重要となります。しかしながら、反応系デザインに基づいた電磁界分布をデザインする必要があること、加えて、電磁界分布をシミュレーションするためには、各々の物質のマイクロ波吸収能が解析上必要となることにより、スケールアップが困難とされてきました。当社はシミュレーション技術の開発を進め、加熱対象物温度分布等のシミュレーション結果を、実際の反応器内部において高い精度で再現させるために、電磁場解析、熱流体解析を連成させました。また、スーパーコンピューターを導入することにより反応器の大型化、およびマイクロ波分布と流動している加熱対象物とが相互に作用し合う複雑系にも対応可能になりました。さらに、反応器製作後に、その実証データとシミュレーションの齟齬を認識、フィードバックを繰り返すことで精度を上げ、スケールアップの最適解を導くことができました。


②要素技術群の開発と蓄積

 要素技術群とは、マイクロ波環境下で化学プロセスを実施するために保有している複数の要素技術で、スケールアップ過程で開発を行ってきたものです。これは、4つのカテゴリに分類され(下表)、さらに20の各技術に細分化されます。


③技術プラットフォームの確立

 マイクロ波プロセスを産業化する過程で「①デザイン力」と「②要素技術群」を構築・強化し、これらで構成される技術プラットフォームを確立しました。そして、この技術プラットフォームを用いることで、化学・エネルギー産業における多様な課題に対して最適なソリューションを提供しています。

 具体的には、顧客から得た課題に対して、蓄積してきた課題解決データベースから類似系を抽出することにより、顧客から得た課題を解決するための要素技術を複数選定し、初期的な概念検証であるラボ開発フェーズ、または実機導入を見据えた実証開発フェーズにおいて、デザインを行います。

 なお、当社が、上述のような技術プラットフォームを確立し、マイクロ波プロセスの産業化に成功した背景として、以下のような点が挙げられます。


1) チーム

 問題解決のために、多様な分野の知識を融合したことが挙げられます。具体的には、反応系デザインに関しては、化学、物理、電気、電磁気の知見を有するサイエンティスト、反応器デザインに関しては、化学工学・機械工学の知見を有するエンジニア、シミュレーションのための専門家、加えて、生産技術確立のための、製造技術者といった様々なバックグラウンドを持つ人材が当社には集結しています。また、要素技術や特定のプロジェクトに関しては、先端的な研究を行っている大阪大学の複数の研究者を技術アドバイザーとして迎え、共同研究を実施して体制強化をしています。


2) インフラ

 当社が有するラボは、マイクロ波に特化した大規模な研究設備を備えており、プロセス検討の初期的な研究開発を担っています。特に反応系デザインに重要な周波数のバリエーションは豊富で、一般的な産業部門やラボ機で用いられる周波数は2.45GHzの1種類がほとんどのところを、当社は主に5種類の周波数を使い分けます。また、大阪事業所の「実証棟」は、実機導入のためのパイロット実証施設として機能しています。このように、当社は、研究・開発→実証→事業化すべてのフェーズにおいてソリューションの提供が可能なインフラを有しています。


3) データベース・ノウハウ・実証経験

 当社は10年以上にわたり、様々な化学企業と多種多様な化学品に関する共同開発を重ねているため、データベース・ノウハウ・実証経験において、膨大な蓄積を有しております。


(3) 当社の事業内容

 顧客課題に応じて、研究開発からエンジニアリング・製造支援までをワンストップでソリューションとして提供しています。技術プラットフォームを様々な化学製品の製造プロセスに応用することを目指していますが、化学産業は研究開発段階から商業化まで時間とコストがかかるため、顧客との長期的な関係を構築し安定的な収益を確保します。

 当社は、顧客の課題解決を目指して研究開発を行う研究開発会社としての側面と、マイクロ波プロセスを設計して反応器を納入するエンジニアリング会社的な側面を併せ持っております。研究開発及びエンジニアリングのソリューションは4つのフェーズで提供していますが、各フェーズの具体的な実施内容は以下の通りであります。

 開発段階のフェーズ1乃至2では、共同開発費や実証機の設計費という形で収益を計上します。顧客が事業化するフェーズ3乃至4では、プロジェクトマネジメントフィーや設計費を計上した上で、顧客がマイクロ波プロセスを導入することによって生み出すことができたコスト削減や付加価値向上などの価値の一部、及び当社が所有するバックグランドIPの使用料としてライセンス収入を、一時金やロイヤリティという形で計上します。

 中長期的には事業化したパイプラインから得るロイヤリティをはじめとした継続的な収益が当社の利益に貢献することを想定しています。

 事業の成功率を高めるためには、当社内でフェーズ0と位置づけている初期段階における開発課題の特定、事業仮説や期待値の設定が重要であり、事業開発チームによる徹底的なヒアリングを実施します。ヒアリング内容をデータベース化し成功パターンを認識し、必要に応じて簡単な試験をすることで、効率の良い案件獲得に繋げていきます。さらに、その前段階となる顧客からの引き合い数を増やすことに注力することで、事業性の高い案件の受注を目指します。


(4) 好循環、自律拡張性、標準化

 顧客課題にソリューションを提供すると、これが当社の技術プラットフォームの強化とこれを支える要素技術群の充実につながり、この強化された技術プラットフォームが顧客課題のソリューション力向上に貢献するという、好循環を実現可能な事業モデルです。これは、ソリューションの提供を通して獲得した装置・プロセスを中心とした知財・ノウハウを当社がある程度自由に展開できる自律拡張的な仕組みとしているからですが、顧客から見ても過去に積み重ねたバックグランドIP・ノウハウを含む技術プラットフォームを低コストで活用でき、メリットを享受することができます。

 さらに、技術プラットフォームを「標準化」し、特定の顧客ではなく、業界・市場に共通した「課題」に対するソリューションを提供することで、技術を横展開しスケールする事業を実現します。具体的な例としては、ケミカルリサイクル事業や医薬関連事業などがあります。ケミカルリサイクルは、サーキュラーエコノミー構築の為に、廃棄プラスチックを分解し、再度、化学品の原料として利用できるようにする事業ですが、マイクロ波熱分解技術を標準化して、家電や車などに使われているプラスチックからレジ袋まで多様な廃棄プラスチックに対応することで、事業の横展開を目指しています。

 成長性・収益性向上という観点から見ると、自律的な技術プラットフォームの強化は技術の完成度につながり前述の各フェーズ間のステージアップ確度の向上、要素技術の充実は対象となる市場領域の拡大に繋がります。


【業績等】

決算期 種別 売上高 営業利益 経常利益 純利益

2023/03 単独会社予想 1,133 67 30 45

2022/03 単独実績 860 -87 -98 -110

2021/03 単独実績 458 -348 -355 -1,036

2020/03 単独実績 1,052 28 27 32


決算期 種別 EPS BPS 配当

2023/03 単独会社予想 3.08 103.11 0.00


上場時発行済株数 15,143,400株(別に潜在株式1,607,100株)

公開株数 3,486,600株(公募1,700,000株、売り出し1,331,900株、オーバーアロットメント454,700株)

調達資金使途 設備投資、借入金の返済


売出しを行う地域

欧州及びアジアを中心とする海外市場(ただし、米国及びカナダを除く。)


PER:159

PBR:

配当利回り:

公募時吸い上げ資金:21.1億

公募時時価:92億

​   

【株主構成】 

UTEC2号投組 ベンチャーキャピタル(ファンド) 2,985,700 19.84% 90日・1.5倍

ジャフコSV4共有投組 ベンチャーキャピタル(ファンド) 2,151,000 14.29% 90日・1.5倍

(株)INCJ ベンチャーキャピタル(ファンド) 1,893,600 12.58% 90日・1.5倍

吉野巌 代表取締役社長CEO 1,484,300 9.86% 180日

塚原保徳 取締役CSO 1,424,300 9.46% 180日

三井化学(株) 資本業務提携先 771,700 5.13% 180日

PNB-INSPiRE EthicalFund1投組 ベンチャーキャピタル(ファンド) 642,800 4.27% 90日・1.5倍

OUVC1号投組 ベンチャーキャピタル(ファンド) 532,800 3.54% 90日・1.5倍

(株)新生銀行 ベンチャーキャピタル(ファンド) 280,000 1.86% 90日・1.5倍

DBJキャピタル投組 ベンチャーキャピタル(ファンド) 255,700 1.70% 90日・1.5倍

本募集及び引受人の買取引受による売出しに関し、貸株人である吉野巌、当社株主かつ当社役員である塚原保徳、当社株主である三井化学株式会社、千島土地株式会社、石塚章斤、フタムラ化学株式会社、山内智央及び太陽化学株式会社並びに当社新株予約権者である下條智也、渡辺久夫、村田究、大山求一、鐘ヶ江延恵、和田雄二、菅野雅皓、木谷径治、今井将太、大谷寛、萩本陽和、澤木直子、伊藤圭介、和田直之、緒方俊彦、奥村治樹、貝原加奈子、髙元保、植村和史、堀直樹、森川智史、村田孝信及びその他新株予約権者26名は、SMBC日興証券株式会社(以下「主幹事会社」という。)に対して、本募集及び引受人の買取引受による売出しに係る元引受契約締結日に始まり、上場(売買開始)日から起算して180日目の2022年12月20日までの期間中は、主幹事会社の事前の書面による承諾を受けることなく、元引受契約締結日に自己の計算で保有する当社普通株式(潜在株式を含む。)及び当社普通株式を取得する権利を有する有価証券の発行、譲渡又は売却等を行わない旨を約束しております。


 売出人であるUTEC2号投資事業有限責任組合、ジャフコSV4共有投資事業有限責任組合、株式会社INCJ、株式会社新生銀行及び岩谷ベンチャーキャピタル合同会社並びに当社株主であるPNB-INSPiRE Ethical Fund 1 投資事業有限責任組合、OUVC1号投資事業有限責任組合、DBJキャピタル投資事業有限責任組合、Mitsui Kinzoku-SBI Material Innovation Fund、SMBCベンチャーキャピタル2号投資事業有限責任組合、ハック大阪投資事業有限責任組合、第一生命保険株式会社、池田泉州キャピタルニュービジネスファンド5号投資事業有限責任組合、SBIベンチャー企業成長支援3号投資事業有限責任組合、SBIベンチャー企業成長支援4号投資事業有限責任組合、SBI Ventures Two株式会社、SBIベンチャー企業成長支援2号投資事業有限責任組合及びSBIベンチャー企業成長支援投資事業有限責任組合は、主幹事会社に対して、本募集及び引受人の買取引受による売出しに係る元引受契約締結日に始まり、上場(売買開始)日から起算して90日目の2022年9月21日までの期間中は、主幹事会社の事前の書面による承諾を受けることなく、元引受契約締結日に自己の計算で保有する当社普通株式及び当社普通株式を取得する権利を有する有価証券の発行、譲渡又は売却等(ただし、その売却価格が募集における発行価格又は売出しにおける売出価格の1.5倍以上であって、主幹事会社を通して行う東京証券取引所での売却等は除く。)を行わない旨を約束しております。


【代表者】

代表者名 吉野 巌(上場時54歳11カ月)/1967年生

本店所在地 大阪府大阪市住之江区平林南(最寄りの連絡所:吹田市山田丘)

設立年 2007年

従業員数 55人 (2022/04/30現在)(平均42.5歳、年収594.2万円)

事業内容 マイクロ波化学プロセスの研究開発やエンジニアリング、ライセンス事業

URL https://mwcc.jp/

株主数 26人 (目論見書より)

資本金 2,298,446,000円 (2022/05/19現在)

社員数 55人(2022年04月30日現在)

代表者生年月日 1967年07月19日生まれ

代表者略歴

1990年04月 三井物産(株) 入社

2002年05月 カリフォルニア州立大学バークレー校経営大学院修了(MBA)

2007年05月 (株)ナラプロ・テクノロジーズ 代表取締役社長

2007年08月 マイクロ波環境化学(株) (現当社)設立 代表取締役社長(現任)

2015年04月 ティエムティ(株) 代表取締役(現任)


【幹事団】

主幹事証券 SMBC日興 2,728,900 90.01%

引受証券 SBI 151,500 5.00%

引受証券 三菱UFJモルガン・スタンレー 121,200 4.00%

引受証券 楽天 30,300 1.00%


【参考類似企業】今期予想PER(5/30)

9212 GEI 108.5倍 (単独予想)


【私見】 

 世界的なテーマであるカーボンニュートラル銘柄としては時流に乗ったビジネスモデルで評価出来ます。しかし、GEIなどもそうですがバイオ銘柄に近く、業績面では赤字の現状で、来期予想で何とかプラスと言った状況で時間はかかりそうです。低単価で、規模的には大きくないので公募割れはないと思いますが、最初に買われて、材料がなければ売られる展開が予想されます。


想定価額:580円

仮条件上限:605円

初値予想:700円

ブック申し込み度・・・やや強気

セカンダリー期待度・・・中立

総合評価:3.5


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