2024年3月13日水曜日

IPO分析(情報戦略テクノロジー)

 【事業の内容】

(1)事業の特徴

 顧客のDXを実現する「0次システム開発」、及びシステム開発業界のDXを実現する「WhiteBox」サービスから成る、DX関連事業を展開しております。DX関連事業の単一セグメントであるため、セグメント毎の記載はしておりません。

 当社の事業の特徴は、以下のとおりであります。

(a)アジャイル開発としての「0次システム開発」

 「0次システム開発」は、顧客とエンジニアが、提案・相談を繰り返しながら協働して開発していく、ビジネスの状況変化に対応して変更可能なアジャイル型の開発手法です。

 IT業界には、多重下請け構造という、顧客から委託された業務を1次請け企業が、2次請け企業、更にその下層の3次、4次請け企業に流していくピラミッド型構造が存在しております。多重下請け構造に基づくシステム開発では、最初に顧客と1次請け企業が決めた要件どおり開発し納品する、ビジネスの状況変化に対応できない後戻りが難しいウォーターフォール型の開発手法(*3)が採られています。

 ウォーターフォール開発においては、長期間に亘る開発の最終的な成果物の検収時に要件と合致しない箇所が発見されて、システム開発企業の負担で修正を求められることがあります。その場合、契約上の納期を満たせないことにもなりかねず、開発期間に多くのバッファを見積り、その分のエンジニア人件費が上乗せされるため、顧客に必要以上のコスト負担を求めているのが一般的です。このことが、顧客のIT投資効率を損なう要因の一つであると当社は考えております。

 それに対し、アジャイル型の開発手法のメリットは、以下のとおりです。

①「作っては見せ」を繰り返しながら開発を進めていくため、詳細な要件定義が必要なく、開発・改善のハイスピード化が図れる。

②「お客様の要望どおり作りましたという証拠」としてのドキュメントが不要或いは最小限になるため、システムの開発・改善に時間及びコストを集中できる。

③重要度が低い部分も含め全てテストし尽くすのではなく、必要十分なテストを都度行いながら開発を進め、不具合が発生したら即対応するスタイルのため、余計なテストコストをカットできる。

 ビジネス状況に合わせてシステム及びそれに基づくビジネスモデルを変化し続けられる企業が勝つDXの時代により必要なのは、多重下請けによるウォーターフォール型のシステム開発ではなく、アジャイル型のシステム開発であると考えております。

 なお、アジャイル開発が直ちに「0次」でのシステム開発を意味するわけではなく、発注者/受注者の関係に止まって一方向の作業依頼によって1次請けのシステム開発を行っている限り、「0次システム開発」とは言えないと当社は考えております。当社においても外部の知識・ノウハウの活用及び人的リソースの確保のため、システム開発業務の一部を信頼できる外部委託先(パートナー)とともに実施することがありますが、そのような発注者/受注者の立場を超えて、顧客の社員と当社エンジニア及びパートナー が協働して業務上の課題を解決することで、顧客におけるシステム開発の「内製」を実現するのが当社の「0次システム開発」です。「内製」とは、事業会社がシステム開発会社任せにせず自ら主導的にシステム開発を推進することを指しています。当社は顧客の「DX内製」を支援するにあたり、第三者的な受託者という意識ではなく、顧客との間で相談・提案を繰り返しながら協働してシステム開発を進めることを特徴としており、それを「1次」請けを超えた「0次」と表現しております。

 そのため、「0次システム開発」においては、顧客と当社エンジニアとの関係だけでなく、当社エンジニアとパートナーとの関係も、多重下請け構造における発注者から受注者への一方向の作業依頼関係ではなく、お互いの提案・相談を前提とする対等なパートナー関係を志向しています。


(b)上流から下流まで一気通貫でのサービス提供

 一般的な1次請けの開発では、依然として、あくまで顧客が要件定義するのを手伝うのに止まっており、業務・システム要件に踏み込んで主体的な提案を行うことが少ないように見受けられます。当社の「0次システム開発」では、業務上の課題に対して主体的な提案を行っており、ITコンサルティングと呼ぶことも可能なサービスです。

 一方、ITコンサルティング会社は、自社内でシステム開発まで担うことは少なく、顧客との間で決めた要件に基づいてシステム開発企業を2次請けとして使用する点において、対等なパートナー関係になく、「0次システム開発」とは異なります。DXの普及に伴い、ビジネスコンサルティング会社がITコンサルティングに進出するケースが増えていますが、ビジネスコンサルティング会社はシステムに精通していない場合もあり、実際のシステム開発の段階に移行してから様々な課題に直面し、提案どおりの実現が困難になるケースも少なくないように見受けられます。

 また、多くの1次請け企業はシステム開発のベースとなる自社開発製品や他社開発ソフトウェア・サービスの販売代理を併せて行っていることから、自社取扱製品・商品の導入を優先するため中立的な提案をすることは難しいのに対し、当社は自社製品を持たず、また他社の販売代理店にはなっていないため、顧客の立場に立った提案が可能です。

 当社はITコンサルティングからシステム開発までを一気通貫でサービス提供するための優秀なエンジニアを抱え、顧客と協働して業務上の課題を解決することのできるシステム開発企業であると考えております。

 なお、2023年12月現在、新卒で入社した1年目のエンジニアを除く社員エンジニアの1人当たり平均月間売上高(人月単価)は116万円を超えておりますが、依然として大手ITコンサルティング会社と比べて低く、提供価値に見合う金額を頂けていないと認識しており、役割に応じた単価設定を継続的に上げていく考えでおります。


(c)営業力があるシステム開発企業

 IT業界の案件獲得は1次請けシステム開発企業(SIer)経由が主流です。

 国内には21,953社(出所:経済産業省「2018年 特定サービス産業実態調査報告書 ソフトウェア業,情報処理・提供サービス業及びインターネット附随サービス業編」)のシステム開発企業が存在していますが、エンドユーザー企業の事業部門の担当者が1社1社調べて適切なシステム開発企業を探すことは非常に手間のかかる作業であり、あまり現実的ではありません。そのため、エンドユーザー企業は既に取引のある1次請け企業にコンタクトを取り、それを受けて1次請け企業が定期的な訪問やコンタクトを受けている2次請け企業の中から顧客(エンドユーザー)の要望に対応可能な外部委託先を選定するというのが、システム開発の受発注において一般的に見受けられる流れであり、多重下請け構造を生じさせております。3次請け以降のシステム開発企業では、商流の上位にいる企業から電子メールで回ってくる提案依頼案件に自社のエンジニアをアサインし、リソースが足りなければ単価の部分を書き換えて他の企業に案件情報を流してリソースを調達するケースもあります。

 当社は、エンジニアの待遇・市場価値を上げることを通じて優秀な人材がエンジニアを目指す社会を実現し、そのことにより日本の国際競争力を回復・向上させるために、各業界のリーディングカンパニーに集中して営業を行っております。「0次システム開発」の取引先は2022年時点で99社であり、取引先の業界構成は以下のとおりです。

 当社のようにエンドユーザー企業に自らアポイントを取って新規開拓営業を行い、直取引を獲得するシステム開発企業は比較的少ないものと認識しております。多くのシステム開発企業は企業規模の拡大を目指さない限り、ある程度継続的な受注が見込めることから、プッシュ型の営業は積極的に行わず、Webでの情報発信、セミナー開催、イベント出展等を通じたプル型のマーケティング活動を中心に行っているものと当社は考えております。当社は、業界改革のために企業規模の拡大を志向していることから、空き稼働が見込まれるエンジニアの稼働を埋めるためという受動的な営業ではなく、絶えず積極的な営業活動を推進しております。


(d)エンジニアの就業環境

 当社は、「すべてを、なくしていく。」という企業理念を掲げており、エンジニアについても以下の事項を掲げております。

・システムエンジニアの使い捨てという発想をなくしていきます。

・優秀なシステムエンジニアが育たないという環境をなくしていきます。

・先進国では優れたシステムエンジニアが経営者になっていく。そんな環境が日本では少ないという事実をなくしていきます。

・優秀な人たちがシステムエンジニアという仕事を選ぼうとしていない状況をなくしていきます。


 そのため、当社はエンジニアの就業環境の整備を以下のとおり進めており、就業環境の整備により優秀なシステムエンジニアが多く採用できるよう、且つ長く就業できるよう努めております。

・平均年収704万円(2023年12月期、2023年新卒を除く)(*4)

・実績・行動・努力を漏らさず反映できるよう、細かく評価項目を設定した評価制度。

・マネジメント職以外にもスペシャリスト、またその知見を活かしエンジニア以外の道も広く用意。

・全工程+クライアントとのコミュニケーションを担当しても、1日当たりの平均残業時間は1時間未満(社内業務含む)。


(e)システム開発企業向けのオープンプラットフォームサービス「WhiteBox」

 「WhiteBox」は、システム開発企業又はフリーランスが利用申込を行い、当社がそれを会員として受付処理することにより利用できるサービスです。企業所属エンジニア又はフリーランス自身の開発経歴(スキルシート)の登録管理等、基本的な機能は無料で利用することができますが、1次請け企業がパートナーを募集する目的でシステム開発案件を掲載・提案したり、パートナーが1次請け企業とエンジニアに関する情報を共有するなどの機能を利用する場合には、月額基本料金が発生します。当社は、自ら本サービスを利用するとともに、全てのシステム開発企業が利用できるオープンなプラットフォームサービスとして提供することを通じて、システム開発における多重下請け構造をなくすという当社理念に共感するシステム開発企業を増やし、業界改革を推進することを目指しております。「WhiteBox」は、受発注の成立までのやり取りを依然として電話やメール等の旧来の方法に依っていることが多い、システム開発業界のDXを実現するサービスです。

 

(f)サービスライン

 当社は、顧客から「0次システム開発」というコンセプトでシステム開発を受注し、更にシステム開発企業向けオープンプラットフォームサービス「WhiteBox」を自社サービスとして提供しております。

a 0次システム開発

 当社は、顧客の社員と当社エンジニア及びパートナーが協働し、システム開発を通じて業務上の課題を解決する「0次システム開発」を提供しており、専ら顧客(エンドユーザー)との直取引案件を手掛けております。

 「0次システム開発」では、要件が固まっていなくてもスタートできるというアジャイル開発の特徴を生かし、アプリケーションのプロトタイプ構築、システム統合、スマホアプリ開発・運用、システム基盤(インフラ)のクラウドへの移行等の分野でも利用されております。

 当社はアジャイル開発の中でも代表的な手法であるスクラム開発に精通したエンジニアの育成に努めており、そうしたエンジニアが顧客の社員と協働してプロジェクトを管理・推進する案件を多く手掛けております。

 また当社では、段階的に投資額を増やしていくことが可能なクラウドインフラサービスであるAmazon Web Services(以下「AWS」という))に注力しており、2024年1月現在、AWS認定資格の取得数が100を超え、「AWS 100 APN Certification Distinction」に認定されております。


b システム開発企業向けオープンプラットフォームサービス「WhiteBox」

 システム開発業務を発注又は受注する企業やフリーランスに対して、所属エンジニア又はフリーランス自身の開発経歴(スキルシート)の登録管理等、基本的な機能を無料で提供するとともに、1次請け企業がパートナーを募集する目的でシステム開発案件を掲載・提案したり、パートナーが1次請け企業とエンジニアの情報を共有するなどの機能を利用する場合に定額の月額基本料金が発生するサービスを、以下のプラン別に提供しております。

「WhiteBox」の特徴は、エンジニア情報の登録を促す工夫として、エンジニアの経験スキル・分野や特徴を記録するスキルシートを管理できるクラウドサービスを無償提供している点にあります。システム開発企業にとってエンジニアのスキルシートをファイルで更新管理するのは手間がかかります。「WhiteBox」の機能を使えば、スキルシートの管理がしやすく、また、どのようなスキル・経験を持ったエンジニアが在籍しているかという情報を提供することによって、1次請け企業から案件情報や開発の打診を直接受け取ることが可能です。

 案件を複数抱え、有望なパートナーを探しているシステム開発企業は、「WhiteBox」を通じて、登録されているパートナー候補企業所属エンジニアのスキルシートを検索し、候補企業に対して直接提案依頼を出すことが可能になります。また、案件情報を「WhiteBox」で公開し、パートナー候補企業から提案を募ることもできます。

 システム開発業界では、契約の終了が間近になってから所属エンジニアの空き稼働を作らないために慌てて営業活動が開始され、その結果、契約が短期間で終了しやすい、引き合いの少ないエンジニアの経験・スキルをベースにした提案営業が一般的に広く行われています。「WhiteBox」においては、SIerプランの会員である1次請け企業はパートナー候補企業所属エンジニアのスキルシートを閲覧可能であることから、顧客のニーズが顕在化していない時点で優秀なエンジニアを抱えるパートナー候補企業との商談を重ね、候補企業と共同で顧客に対して案件を創出するための提案を仕掛ける「未来マッチング」を行うことができます。

 当社は、2019年2月から、当社内での利用を目的に、当社社員、及びフリーランスではなく企業に所属するエンジニアを対象としてスキルシートデータベース(DB)作りを始めました。その後、DBをオープンなプラットフォームとしてサービス化することで、システム開発提案能力と事業拡大意欲を有する企業が、受動的でないシステム開発提案を行えるようになり、当社が企業理念として掲げている業界の下請け体質の改革に繋がると同時に、当社にとってのパートナー企業開拓力に寄与するものと考え、2020年4月に「WhiteBox」の実証実験を開始し、2021年1月に正式サービスへ移行しました。2023年12月末現在、2,091社が会員登録しており、3万人超のエンジニアのスキルシートが登録されております。


【業績等】

決算期 種別 売上高 営業利益 経常利益 純利益

2024/12 単独会社予想 5,811 419 394 286

2023/12 単独実績 5,298 388 385 275

2022/12 単独実績 4,939 302 332 285

2021/12 連結実績 3,856 132 136 25


決算期 種別 EPS BPS 配当

2024/12 単独会社予想 29.74 181.03 0.00


上場時発行済株数 9,970,000株(別に潜在株式940,000株)

公開株数 2,380,500株(公募1,470,000株、売り出し600,000株、オーバーアロットメント310,500株)

調達資金使途 設備投資(本社移転に係る内装などの工事費用や敷金)、運転資金(本社の移転・拡張より増加する地代家賃、人材の採用)


PER:15.5

PBR:

配当利回り:

公募時吸い上げ資金:10.9億

公募時時価:46億

​   

【株主構成】 以下180日

高井淳 代表取締役社長 4,476,317 47.42%

(株)ISTホールディングス 役員らが議決権の過半数所有 3,500,000 37.08%

コタエル信託(株) 新株予約権信託の受託者 660,000 6.99%

近藤将人 従業員、元取締役 280,000 2.97%

礒谷幸始 特別利害関係者など 264,320 2.80%

社員持株会 特別利害関係者など 164,963 1.75%

広田重徳 取締役 94,400 1.00%


 本募集並びに引受人の買取引受による売出しに関連して、売出人且つ貸株人である髙井淳、当社株主である株式会社ISTホールディングス、礒谷幸始、情報戦略テクノロジー社員持株会及び廣田重徳並びに新株予約権者であるコタエル信託株式会社及び近藤将人は、主幹事会社に対し、元引受契約締結日から上場(売買開始)日(当日を含む)後180日目の2024年9月23日までの期間(以下「ロックアップ期間」という。)中、主幹事会社の事前の書面による同意なしには、当社普通株式の売却(ただし、引受人の買取引受による売出し及びオーバーアロットメントによる売出しのために当社普通株式を貸し渡すこと等を除く。)等を行わない旨合意しております。


【代表者】

代表者名 高井 淳(上場時48歳9カ月)/1975年生

本店所在地 東京都渋谷区東

設立年 2009年

従業員数 283人 (2024/01/31現在)(平均33.4歳、年収635万円)

事業内容 大手企業向けDX(デジタルトランスフォーメーション)内製支援サービスなど

URL https://www.is-tech.co.jp/

株主数 5人 (目論見書より)

資本金 50,000,000円 (2024/02/22現在)



【幹事団】

主幹事証券 みずほ 1,904,400 92.00%

引受証券 アイザワ 20,700 1.00%

引受証券 あかつき 20,700 1.00%

引受証券 岩井コスモ 20,700 1.00%

引受証券 SBI 20,700 1.00%

引受証券 極東 20,700 1.00%

引受証券 松井 20,700 1.00%

引受証券 マネックス 20,700 1.00%

引受証券 丸三 20,700 1.00%


【参考類似企業】 今期予想PER(2/29)

3627 テクミラ 550.6倍 (連結見込)

4069 BlueMeme 21.7倍 (連結予想)

4687 TDCソフト 16.9倍 (連結予想)

5255 モンスターラボ - (連結予想)


【私見】

 DX関連で業種としては悪くはないものの、インパクトにはやや欠けます。業績も派手さはないものの、確実に伸びていて好感は持てます。想定価額から大幅に下げたことにより割安感が出たこともプラス材料です。更に低単価で、完全ロックなので需給面でも好感が持てますので、初値かセカンダリーどちらかで人気にはなるでしょう。


想定価額:600円

仮条件上限:460円

初値予想:800円

ブック申し込み度・・・強気

セカンダリー期待度・・・中立

総合評価:3.5

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