2023年3月16日木曜日

IPO分析(エコム)

 【事業内容】

 工業炉の設計から稼働後の保守サービスまで全工程を一貫して行う、「熱技術総合エンジニアリング企業」です。エコムという社名はEcology(環境) & Combustion(燃焼)から派生する造語であります。「熱のスペシャリスト集団」として、工場の省エネルギー化を実現し「加熱技術で環境問題に取り組む企業」を企業目標に掲げております。

 特に、気候変動の要因と考えられる二酸化炭素の排出量低減に、当社の加熱技術を活かしていきたいと考えております。2022年4月に環境省から発表されたデータ(出典:2020年度(令和2年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について 2022年4月発表)によると、この二酸化炭素の排出量の約34%は「工場等の産業部門」からの排出であります。これは、自動車を中心とする運輸部門を大きく上回る数字であります。さらに、その産業部門から排出される二酸化炭素の約40%は「工業炉」からの排出であります。(出典:日本工業炉協会文献資料「産業界の省エネルギー/環境負荷低減に大きく貢献する高性能工業炉」)これは、日本全体の排出量の約13.6%にも及びます。このような現状から、2050年に排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目指す我が国の社会的要請に対して、工業炉メーカー(工場の生産ラインの中でも、特に「加熱工程」を専門とした機械メーカー)に属する当社は、この脱炭素社会の中で求められる工業炉の省エネルギー化を事業活動の中心に位置付け、その事業活動と社会貢献を両立し、持続可能な成長を目指します。

 事業セグメントは、①工業炉の開発・設計・製造を行う「産業システム事業」と、②工業炉の点検、監視、改造工事を行う「保守サービス事業」で構成されております。設計のみ、製造のみを請け負うメーカーが多い中、川上の設計から川下の保守までの一連の工程すべてを自社で行えることが当社の強みであります。


① 産業システム事業

 産業用の大型工業炉を、オーダーメイドで設計・製造する事業であります。

a.ファーネスプロダクツ

 世の中で使用されている様々な商品や製品については、強度を増したり、物性を変化させて安定させたりするために、いわゆる「熱処理」が施され、その品質が維持されています。そして、その「熱処理」を通して、商品や製品は「硬く」「強く」「精度よく」「美しく」なり、機能し始めます。当社は、これらの「熱処理」を行う工業炉をオーダーメイドで設計、製造します。工業炉には、金属を溶解する「溶解炉」、塗装を乾燥する「乾燥炉」、樹脂を硬化する「硬化炉」など、様々な種類があります。それらの工業炉を通じて、アルミ・ガラス・炭素繊維などの素材から、車やスマートフォンの部品などが作り出されています。「部品を作る機械を作る」のがファーネスプロダクツ事業であります。

 なお、当社の産業システム事業における受注の78.1%(2020年7月期~2022年7月期の直近3ヵ年実績)は自動車業界となります。自動車部品の製造には、アルミ溶解、塗装乾燥、部品の強度を高めるためのアニール処理など、様々な熱処理が必要であります。特にエンジン系やブレーキ系を始めとする重要保安部品に要求される品質基準は非常に高く、精緻な加熱コントロールが求められます。

 また、中長期的には自動車業界は「100年に一度の大変革期」にあり、自動車メーカー各社はCASE対応(Connected Autonomous Shared & Services Electric)に多額の資金を投入しております。

 駆動が「エンジン」から「EVモーター+電池」へ移行する中、当社は、Electric(電動化)から派生する新たな自動車部品(モーター、インバーター、水素タンクなど)の製造に必要な工業炉を受注するために、テクニカルセンター(ETC)を積極活用し、設備開発段階からプロジェクトに参加できる体制を構築しております。

 

b.ヒートトライアル(製品加熱テスト)

 「何度で何分加熱すればよいのか?」その最適解を見つけるのがヒートトライアルであります。

当社のエコムテクニカルセンター(ETC)では、顧客企業が「ワーク」を持ち込んで当社とともに加熱テストを行っております。ワークとは、エンジンブロックやホイール、モーター、フィルムなどの加熱対象物のことであります。熱処理には、熱源(ガス又は電気)、温度、圧力、風速、加熱方向、ノズル形状、及び搬送方法など様々なパラメータがあり、品質を担保しながら最短の処理時間を模索します。顧客企業が工業炉を発注するには、これらのパラメータを記した仕様書が必要となります。当社は、この仕様書を顧客企業とともにテストを重ねながら作り上げていきます。ヒートトライアルの結果、既存の炉と比較して50%の省エネに成功するケースも少なくありません。

 当社にとってヒートトライアルは、強力な開発ツールでもあり、営業ツールでもあります。そして、テストで良好な結果を出すことで、①省エネ、②省時間(時短)、及び③省スペースで付加価値の高い製品提案が可能となります。

 ヒートトライアルが終了したら、次に3D-CADによる構想設計、及び「3D熱流体解析シミュレーション」に着手します。オーダーメイドの工業炉は、「実際作ってみるまで仕様どおりの温度が出せるかわからない」というのが従来からの問題でした。いったん炉ができてからの作り直しは、製造コストを増大させます。当社は、この「作り直し問題」を解決するため、「ヒートトライアル」によるアナログ試験データと「3D熱流体解析シミュレーション」によるデジタルデータを融合させ、失敗の少ない「ものづくり」を可能にしております。

 

 c.省エネ環境デバイス

 工業炉は大量のエネルギーを消費するため、同時に多くのCO₂を排出します。日本の産業部門のエネルギー消費量のうち、工業炉が占める割合は約40%と言われており、地球温暖化の大きな一因となっております。当社の顧客の中心である大手メーカーは、カーボンニュートラル実現に向けCO₂排出削減目標を掲げており、よりエネルギー効率の高い設備の導入を求めております。当社はそのニーズに応えるべく、省エネ環境デバイスを開発しております。代表的な製品としては、高温空気燃焼技術を採用し通常のバーナーに比べNOxとCO₂の排出を抑制した排熱回収式熱交換器搭載型の省エネバーナー「ecoNext(エコネクスト)」、遠赤外線効果により加熱処理時間を短縮可能とした遠赤外線パネルヒーター「EIRヒーター」が挙げられます。

 現時点では、省エネ環境デバイスの販売実績は少額にとどまっておりますが、国内での販売のみならず、将来構想として海外進出を目指しております。その取り組みの第一歩として、2018年にドイツで開催された世界最大の熱技術展「サーモプロセス」に当社製品を出品しました。

また、自社開発の省エネ環境デバイスを自社提案のファーネスプロダクトに搭載する事で、より付加価値の高い高利益率な装置提案が可能となります。

 

② 保守サービス事業

 当社の祖業のビジネスであり、創業者が、工具箱を片手に工業炉のメンテナンスを始めたのが当社の出発点であり、そこで得たノウハウをもとに産業システム事業を立ち上げ、成長してまいりました。現在全国で539社、1,252設備の工業炉のメンテナンスを既に請け負っております。お客様が保有する工業炉を、安全にかつ省エネルギーで長い間稼働、使用し続けられるように定期・不定期に点検し、時に改修工事の提案などを行う業務となります。利益率が高く、景気に左右されにくいのが特徴であります。コロナ禍により経営環境が悪化する中でも、保守サービス事業の売上高は堅調な実績を残しております。


a.ファーネスエンジニアリング

 顧客企業の工場に出向き、改造工事などを行う「オンサイトサービス」であります。

昨今、顧客企業は「カーボンニュートラルの実現」に向けた投資を加速しており、省エネ改造工事を行う「ファーネスエンジニアリング」は、成長ビジネスの一つと位置付けております。このような(顧客企業からの)要望に対し、自社製作設備に限らず、他社が製作した装置に対しても工事を行っております。

また、省エネ改造工事の前後には「省エネ診断」にて、CO₂削減量などの効果を数値で測定、評価します。

そして、顧客の要望に応える事で、「IoTメンテナンスサービス」であるストック型の安定収入ビジネスに繋げていきます。

工炉メーカーである当社にとって、現場で起きた様々な問題点を実感できることは技術的に大きなメリットがあり、そこで得た気づき、これらの対処方法やノウハウを産業システム事業の「ものづくり」に反映することができます。


b. IoTメンテナンスサービス

 「定期点検」を中心とした「ストック型のオンサイトサービス」であります。点検業務は、「自社で製作した設備しか保守はしない」のが一般的でありますが、当社は、自社製はもちろん、他社製の工業炉も積極的に点検しております。なお、他社製品のメンテナンス比率は81%になります。

 現在では539社、1,252設備の工業炉の定期点検をストック型ビジネスとして全国で展開しております。加えて、2020年10月に新しい定期点検の形として、IoTメンテナンスサービス「Miterune」をリリースしました。

 従来では、年に1~2回の定期点検において問題点を抽出し、設備保全に努めていましたが、顧客企業の工業炉にセンサーを設置し、クラウド上に収集した各種燃焼データを、当社が遠隔監視することで、設備の不具合や故障を事前に予知し、生産停止などの企業にとって致命的なトラブルを未然に防ぎます。

アナログの「オンサイトサービス」とデジタルの「クラウドサービス」を融合することで、付加価値の高いメンテナンスサービスを提供しております。

 従来、現場にいないと把握できなかった工業炉の稼働状況をPCやタブレットなどの画面にグラフィカルに表示することで、いつでもどこでも精度の高い運転管理が可能になります。当社のスタッフが、工業炉の稼働状況を監視し、自動で緊急アラートを上げるのはもちろん、省エネのための運用サポートもいたします。

 そして、カルテ形式の「Miterune診断レポート」を定期配信することで、炉の稼働状況を継続的かつ客観的なデータとして蓄積することが可能であります。当サービスは、関西電力株式会社と共同開発した当社オリジナルのIoTサービスとして注目されております。また、今後の更なるサービス向上を目的に、2020年7月に関西電力株式会社と資本提携契約を締結しております。


 c. パーツセールス

 工業炉に必要な各種消耗用品、交換部品を販売するサービスであります。

 プロテクトリレー、コントロールモーター、温度調節計、温度センサーなど、工業炉を構成するパーツの大部分を取り扱っております。また、常時600以上のパーツは在庫として常備し、緊急対応できる体制を整えております。工業炉のパーツは購入できても、その取り付けには技術や調整が必要なものが多くあります。さらに、工業炉は他の工作機械と比べ比較的使用年数が長く、構成部品が古くて廃番になっていたり、型式がわからなかったりと選定が困難なケースもあります。部品を販売するだけでなく、最適な機器選定、取り付け、設定まで行うことができるのが当社のパーツセールスの特徴であります。


【業績等】

決算期 種別 売上高 営業利益 経常利益 純利益

2023/07 単独1Q実績 402 34 33 17

2023/07 単独会社予想 2,355 223 223 263

2022/07 単独実績 1,501 97 106 101

2021/07 単独実績 1,758 129 136 149


決算期 種別 EPS BPS 配当

2023/07 単独会社予想 300.34 - 33.00


上場時発行済株数 1,033,500株(別に潜在株式15,000株)

公開株数 161,000株(公募20,000株、売り出し120,000株、オーバーアロットメント21,000株)

調達資金使途 設備資金、長期借入金返済


PER:5.6

PBR:

配当利回り:

公募時吸い上げ資金:2.7億

公募時時価:17億

​   

【株主構成】 以下180日

高梨智志 代表取締役 271,500 30.63%

高梨今日子 代表取締役の血族 212,500 23.97%

東京中小企業投資育成(株) 投資業(ファンド) 150,000 16.92%

エコム社員持株会 特別利害関係者など 90,500 10.21%

(株)ノリタケカンパニーリミテド 資本業務提携先 51,000 5.75%

しんきん-やらまいか投組 投資業(ファンド) 46,000 5.19%

関西電力(株) 資本提携先 30,500 3.44%

鈴木祥吾 取締役 11,500 1.30%

瀧本典昭 取締役 10,000 1.13%

幡野雄一 取締役 6,500 0.73%

高梨千宙 代表取締役の血族 6,000 0.68%


本募集並びに引受人の買取引受による売出しに関連して、売出人かつ貸株人である髙梨智志、売出人である東京中小企業投資育成株式会社及び髙梨今日子並びに当社株主である株式会社ノリタケカンパニーリミテド、しんきん-やらまいか投資事業有限責任組合、関西電力株式会社、鈴木祥吾、瀧本典昭、幡野雄一、髙梨千宙及び関伸一は、主幹事会社に対し、元引受契約締結日から上場(売買開始)日(当日を含む)後180日目の2023年9月26日までの期間(以下「ロックアップ期間」という。)中、主幹事会社の事前の書面による同意なしには、当社普通株式の売却(ただし、引受人の買取引受による売出し、オーバーアロットメントによる売出しのために当社普通株式を貸し渡すこと等は除く。)等を行わない旨合意しております。

【代表者】

代表者名 高梨 智志(上場時52歳5カ月)/1970年生

本店所在地 静岡県浜松市浜北区平口

設立年 1985年

従業員数 63人 (2023/01/31現在)(平均34.6歳、年収489.3万円)

事業内容 工業炉の開発・設計・製造および保守点検

URL https://ecom-jp.co.jp/

株主数 13人 (目論見書より)

資本金 100,000,000円 (2023/01/31現在)

社員数 63人(2023年01月31日現在)

代表者生年月日 1970年10月02日生まれ

代表者略歴要

1994年04月 株式会社島津製作所入社

2007年04月 当社取締役就任

2009年10月 当社代表取締役就任(現任)


【幹事団】

主幹事証券 東海東京 124,600 89.00%

引受証券 SBI 2,800 2.00%

引受証券 SMBC日興 1,400 1.00%

引受証券 松井 1,400 1.00%

引受証券 マネックス 1,400 1.00%

引受証券 楽天 1,400 1.00%

引受証券 極東 1,400 1.00%

引受証券 岡三 1,400 1.00%

引受証券 水戸 1,400 1.00%

引受証券 安藤 1,400 1.00%

引受証券 丸三 1,400 1.00%


【参考類似企業】今期予想PER(3/7)

1964 中外炉 13.1倍 (連結予想)

5331 ノリタケ 6.6倍 (連結予想)

5355 ルツボ 21.4倍 (連結予想)

6494 NFK-HD 51.0倍 (連結予想)


【私見】

 業種は地味で、成長性もなさそうな業種で、名証というこからも参加者限定でしょう。業績は今期は伸びたものの、成長性からは低PERが容認される業種で適度なのかもしれません。規模も小さく、需給も問題ないのですが、市場から厳しいでしょう。


想定価額:1680円

仮条件上限:1680円

初値予想:1680円

ブック申し込み度・・・弱気

セカンダリー期待度・・・中立

総合評価:2.5

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