2023年6月21日水曜日

IPO分析(AeroEdge)

 【事業内容】

(1) 航空機エンジン部品加工

① 事業の特徴

 商業用航空機である、仏Airbus社製A320neoファミリー機と米Boeing社製737MAX機用エンジンである「LEAP」に搭載される、チタンアルミ製の低圧タービンブレードの加工生産・販売を行っております。航空機エンジンは、主にファン、低圧コンプレッサー、燃焼器、高圧コンプレッサー、高圧タービン、低圧タービンから構成されておりますが、低圧タービンは、燃焼ガスのエネルギーを回転力に変換しシャフトを介してファンに伝達する役割を担っており、当社のチタンアルミブレードは、その低圧タービンの最後段を構成しております。

 航空機エンジンメーカー大手である仏SAFRAN社と、LEAPエンジンに搭載される、当該チタンアルミブレード需要の35%のシェアを、原則として一定の価格(取引契約上は2022年6月から2026年まで同一価格、2027年以降は一定額の減少)で供給する契約を締結しております。そのため、当社のチタンアルミブレード生産量は、LEAPエンジンの生産量、並びにLEAPエンジンが搭載される737MAX及びA320neoファミリー等の生産量に影響を受けることとなります。一方で、航空機販売の特徴として、そのリードタイムの関係上、数年前から受注を受け付けることから、長期に渡って受注残高を積み上げることとなります。その結果、他業界と異なり、需要予測が長期間に渡って見込みやすい業界となります。当社においても、仏SAFRAN社からは数週間分の確定発注とともに、一定期間の発注見込みも提示されることから、一定程度の高い販売予測を見込むことができます。販売単価についても契約によって定められているため、当社の売上金額は一定の精度で見込むことができます。また、当社は将来の増産に対応する設備を確保していること、材料が無償支給であることによる変動費の低さから、売上増加に伴う利益率の拡大が期待できる収支モデルとなっております。


② 製品の概要

 当社が生産・販売するチタンアルミ製の低圧タービンブレードが搭載されるLEAPエンジンは、米GE社と仏SAFRAN社の合弁企業であるCFM International社により開発生産され、先端の技術を搭載することにより、従来機種より消費燃料とCO2排出量の15%削減を実現したエンジンであり、航空機グローバルシェアNo.1の仏Airbus社製A320neoファミリー機とNo.2の米Boeing社製737MAX機に搭載されております。

 航空業界においては、燃料費高騰や環境負荷等への対応を背景に、燃費の向上が求められております。チタンアルミブレードは、従来使用されていたニッケル合金製のものと比較し、約半分の比重であるため機体の軽量化に貢献するとともに、高温における強度劣化が少なく、耐熱性も兼ね揃えた部品となります。そのため、旧来エンジンよりも性能を向上させることを目的に、LEAPエンジンに導入された新たな技術要素のうちの1つとなっております。なお、チタンアルミブレードは、従来材料より軽量である一方で、量産加工の難易度が高く、LEAP向けチタンアルミブレードを供給している企業は当社を含めてグローバルで2社のみとなります。当社は仏SAFRAN社と取引契約を締結し、当該チタンアルミブレードを供給しております。

 最適な工程設計の開発、CAMによる加工プログラムの自社作成、加工に必要なエンドミル(切削加工に用いる工具)の自社設計と生産、設備メーカーとの協働による特殊設備の導入、治具の自社開発設計と製作、非破壊検査設備の導入や品質検査体制の自社整備等を行うことで、チタンアルミブレードの量産加工を実現しております。なお、チタンアルミブレードの量産加工の特徴は以下のとおりです。


 ③ 航空業界部品で求められる能力と当社の状況

 航空機エンジン産業は高度な安全性及び信頼性を確保するため、構成部品はロット番号やシリアル管理によるトレーサビリティが求められており、サプライヤーは設備の変更や加工プログラムの一部修正等の全ての生産プロセスの変更や修正において航空機エンジンメーカーの認証や許可が必要となります。そういった背景から、生産サプライヤーはあらゆる面で、高い水準の能力を具備することが求められております。


④ 航空機体及びエンジン産業構造

 当該事業が属する産業構造は下記のとおりであります。

a.航空機産業の特徴

 航空機エンジンは高度な品質水準が求められるため、開発から品質及び生産の安定化までに長い年月と莫大な金額の設備投資が必要となります。また、品質及び生産が安定化した後も他産業と比較にならないほどの品質水準と生産管理水準が求められることが特徴です。航空機産業と自動車産業との比較は下記のとおりとなります。

 

b.航空機体及びエンジンメーカー

 航空機産業はその産業構造から、参入障壁が高く、最終製品メーカー(機体及びエンジン)が少数の企業で占められていることが特徴となります。実質的に、商業用航空機体メーカーは仏Airbus社及び米Boeing社の2社、航空機エンジンメーカーは米GE社、米Pratt & Whitney社及び英Rolls Royce社の3社で大半のシェアが占められております。なお、当社の製品であるチタンアルミ製タービンブレードが搭載されるLEAPエンジンは、米GE社と仏SAFRAN社の合弁企業であるCFM International社が開発したエンジンとなります。


c.航空機エンジン産業のライフサイクル

 航空機や航空機エンジンは、その長い開発期間と多額の開発費用から、ライフサイクル期間が、他産業の製品のライフサイクル期間より長期間になることも特徴です。したがって、航空機エンジン産業の事業収益モデルは莫大な初期投資と、長期に渡る品質管理体制と生産管理体制の準備と構築を必要とすることが特徴となります。一方で、参入障壁が高く、新規参入企業が少ないために将来の利益を計画しやすいという特徴があります。そして、航空機エンジン産業において、事業の初期段階である導入期には赤字事業となりますが、設備投資が一巡した成長期以降は継続的に黒字事業となることが一般的なビジネスモデルとなっております。


d.航空機体と航空機エンジンの種類

 実質的に唯一の商業用航空機体メーカーである仏Airbus社及び米Boeing社が現在新規受注を進めている旅客用機体種類は限定されております。仏Airbus社の新規受注機体種類は、A350、A330、A220、A320neoファミリーの4機種のみであり、米Boeing社の新規受注機体種類は、777機、787機、737MAX機の3機種のみとなっています。そのうち、当社製品が搭載されるLEAPエンジンが搭載される機種は、仏Airbus社のA320neoファミリー機及び米Boeing社の737MAX機となります。

 仏Airbus社のA320neoファミリー機では、LEAPエンジンを含めた2種類のエンジンが採用されており、米Boeing社の737MAX機では100%の機体でLEAPエンジンが搭載されております。LEAPエンジンが搭載される両機種は主に国内線で多く使われる中小型のNarrow Body機(狭胴機)であり、燃費が良く環境負荷が低いことが特徴となっております。


e.航空機輸送の考え方と受注残高機数

 航空機輸送の考え方として、ハブアンドスポーク方式と、ポイントトゥポイント方式の考え方があります。ハブアンドスポーク方式は、大型のWide Body機(広胴機)等を活用し、主要空港などの大規模拠点(ハブ)に輸送を集中させ、そこから中小型のNarrow Body機等を活用して各拠点(スポーク)に輸送を行う方式となります。一方で、ポイントトゥポイント方式は、中小型機等を活用し、出発地から目的地に直接輸送を行う方式となります。以前は、大型機でないと長距離飛行ができなかったこともあり、ハブアンドスポーク方式が多く採用されておりました。しかしながら、エンジン性能の向上による規制の変更や、中小型機の燃費向上に伴う長距離飛行の実現に伴い、乗換等の手間が不要で柔軟なフライト設定が可能なポイントトゥポイント方式の考え方を取り入れる航空会社が増加しております。その結果、中小型機の需要が大きく増加する傾向にあり、仏Airbus社及び米Boeing社ともにLEAPエンジンが搭載される中小型機の受注残高が大きく増加しております。


(2) その他の加工

 チタンアルミブレードの生産販売以外にもチタンアルミブレードの加工で培った技術・経験、並びにAdditive Manufacturing技術も活用し、eVTOL(電動垂直離着陸機、いわゆる空飛ぶクルマ)用部品やガスタービン用部品の受託加工を行っております。これら受託加工は、社内の設備で全てを加工する場合もあれば、協力サプライヤーに加工の一部を委託する場合もあります。社内の設備で加工する場合は、その量産規模にもよりますが、一定程度の設備投資が必要となる場合があります。


【業績等】

決算期 種別 売上高 営業利益 経常利益 純利益

2023/06 単独3Q累計実績 2,132 395 503 590

2023/06 単独会社見込 2,903 451 551 639

2022/06 単独実績 1,964 -124 10 7

2021/06 単独実績 848 -845 -757 -766


決算期 種別 EPS BPS 配当

2023/06 単独会社見込 191.79 - 0.00


上場時発行済株数 3,702,230株(別に潜在株式592,000株)

公開株数 919,500株(公募368,000株、売り出し431,600株、オーバーアロットメント119,900株)

調達資金使途 設備投資


PER:7.6

PBR:

配当利回り:

公募時吸い上げ資金:13.4億

公募時時価:54億

​  

【株主構成】 以下180日

菊地歯車(株) その他の関係会社 958,530 24.41%

森西淳 代表取締役社長兼執行役員CEO 800,000 20.38%

豊田通商(株) 特別利害関係者など 460,000 11.72%

(株)日本政策投資銀行 特別利害関係者など 430,000 10.95%

DMG森精機(株) 特別利害関係者など 400,000 10.19%

ナイン・ステーツ・4投組 投資業(ファンド) 285,710 7.28%

水田和裕 取締役兼執行役員COO/CTO 130,000 3.31%

今西貴士 取締役兼執行役員CFO 105,000 2.67%

(株)足利銀行 特別利害関係者など 57,140 1.46%

めぶき地域創生投組 投資業(ファンド) 57,140 1.46%

三菱HCキャピタル(株) 特別利害関係者など 57,140 1.46%

JA三井リース(株) 特別利害関係者など 28,570 0.73%


 本募集並びに引受人の買取引受による売出しに関連して、売出人かつ貸株人である森西淳、売出人である菊地歯車株式会社、当社株主である豊田通商株式会社、株式会社日本政策投資銀行、DMG森精機株式会社、ナイン・ステーツ・4投資事業有限責任組合、株式会社足利銀行、めぶき地域創生投資事業有限責任組合、三菱HCキャピタル株式会社、JA三井リース株式会社及び当社新株予約権者である水田和裕、今西貴士、徳永昌宣、本田卓也ほか16名は、主幹事会社に対し、元引受契約締結日から上場(売買開始)日(当日を含む。)後180日目の2023年12月30日までの期間(以下「ロックアップ期間」という。)中、主幹事会社の事前の書面による同意なしには、当社普通株式の売却(ただし、引受人の買取引受による売出し、オーバーアロットメントによる売出しのために当社普通株式を貸し渡すこと等を除く。)等を行わない旨合意しております。

 ​

【代表者】

代表者名 森西 淳(上場時56歳3カ月)/1967年生

本店所在地 栃木県足利市寺岡町

設立年 2015年

従業員数 85人 (2023/04/30現在)(平均36歳、年収516.6万円)

事業内容 航空機エンジン部品などの製造、販売

URL https://aeroedge.co.jp/

株主数 10人 (目論見書より)

資本金 100,000,000円 (2023/05/29現在)

代表者略歴

1984年04月 株式会社チャンピオン美容室入社

1987年04月 株式会社和田商事入社

1990年07月 松本精機株式会社入社

1994年11月 菊地歯車株式会社入社

2015年07月 同航空宇宙事業部長、9月:当社代表取締役社長兼CEO

2018年01月 菊地歯車株式会社取締役

2019年09月 当社代表取締役社長兼執行役員CEO(現任)


【幹事団】

主幹事証券 みずほ - -

引受証券 野村 - -

引受証券 大和 - -

引受証券 SBI - -

引受証券 楽天 - -

引受証券 マネックス - -

引受証券 水戸 - -


【参考類似企業】今期予想PER

00001 仏サフラン 24.5倍 (連結予想)

00002 仏ダッソー 15.6倍 (連結予想)

00003 独MTUエアロ 19.1倍 (連結予想)

00004 欧エアバス 20.5倍 (連結予想)

00005 英ロールスロイス 23.0倍 (連結予想)

00006 米ボーイング 164.6倍 (連結予想)

00007 米GE 36.4倍 (連結予想)

6111 旭精機 30.3倍 (連結予想)

7012 川重 12.2倍 (連結予想)

7013 IHI 11.4倍 (連結予想)

7841 遠藤製作 7.0倍 (連結予想)


【私見】

 仏エアバス社や米ボーイング社との取引をしている小さな栃木の会社ですが、世界相手と直接取引していることは大きな優位性を感じます。上場で、知名度向上と資金調達で事業拡大できるかが株価的には焦点ですが、海外評価が高くなるのか、その判断は極めて難しいです。コロナ明けで航空機需要のの回復で業績は戻り、PERからも割安な水準です。需給面でも、規模も大きくなく、VCなしの完全ロックは評価できます。派手さはないので買い殺到にならないとは思いますが、穴的な銘柄としてマークしたいと思います。


想定価額:1460円

仮条件上限:1690円

初値予想:3300円

ブック申し込み度・・・強気

セカンダリー期待度・・・中立~やや強気

総合評価:3.5

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